第39話

第三十七話 容疑者
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2026/04/13 10:00 更新
ナイフを手に取った。
覚悟を決める様に深く深呼吸をした。
手に持ったナイフを、“天馬司”に刺した。
赤黒い血が滲む。
ナイフの先から血がポタポタと垂れ、辺りは血に塗れた。


 
天馬司
天馬司
 ッ⋯⋯はっ、はっ⋯⋯ 


 
呼吸が浅くなる。
ナイフの先から伝わる、人を刺したという実感が、喉を締め付けるようだった。
目の前にいるオレ──いや、渋谷連続殺人事件の真犯人は、憎しみの目でオレを見ていた。


 
天馬司
天馬司
 クソッ⋯⋯!!!! 
天馬司
天馬司
 お前には
 殺せないと思っていたのに⋯!! 


 
そこまで言い、「私」は苦しそうに声を漏らした。
少し苦しそうに顔を歪め、視線を下に向けた。
そして「私」は下を向いたまま込み上げる声を抑えるように笑いだした。


 
天馬司
天馬司
 ⋯だけど、これで君は 
 正真正銘殺人犯になった 
天馬司
天馬司
 やはり私と君は“同じ”なんだよ! 


 
オレに刺された傷を抑えながらそう言った。
惨めに笑うソイツに反吐が出る。
潔く死んでくれないのか。
少しのいら立ちを心に抱えながら口を開いた。


 
天馬司
天馬司
 確かに、オレは人を殺した 
天馬司
天馬司
 そしてお前のした事も、
 オレのした事として償うつもりだ 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯は⋯⋯? 
天馬司
天馬司
 自分はしてない罪を被って 
 生きるなんて、嫌じゃないの?! 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯あぁ、嫌だな 


 
オレのもう一つの人格が沢山の人を殺した事は、もちろん今でも受け入れられない。
それでも、受け入れなくてはいけないのだ。
そうしないと、渋谷連続殺人事件は終わらないから。
納得できない様子の「私」に、オレは語り始めた。


 
天馬司
天馬司
 類に言われたんだ 
天馬司
天馬司
 「この先自分を責めたくなる事が 
 あっても、絶対に責めるな」と
天馬司
天馬司
 だからオレはオレの事を責めない 
 例え世間に“天馬司”を責められても 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯あぁ⋯⋯ 


 
「私」は、その場に力なく座り込んだ。
出血もしていて力が入らないのだろう。
このまま死に絶えると思ったが、彼はギリッと歯を食いしばった。


 
天馬司
天馬司
 ああ!!あああああ!! 
 あの演出家か!! 
天馬司
天馬司
 やはりアイツは私の人生ショーにとって 
 邪魔な存在だった!!! 
天馬司
天馬司
 クソッ!!!!!!!! 
天馬司
天馬司
 もっと、もっと早くに
 殺しておくべきだった!!!!! 
天馬司
天馬司
 そもそも「オレ」がセカイに 
 気づいた時点で動いていれば⋯! 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯クソッ、クソッ!!! 
 クソッ!!!!!!!


 
悔しそうに何度も何度も地面に拳を振り下ろす。
「私」が叫ぶ度、拳を振り下ろす度、傷口から血がドバドバと流れ出る。
やがて辺り一面「私」の血で真っ赤に染まり、「私」はピクリとも動かなくなった。


 
星乃一歌
星乃一歌
 ──さん!司さん! 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯はっ?! 
星乃一歌
星乃一歌
 司さん⋯大丈夫ですか? 
 急に気を失われて⋯


 
寝起きのように頭がボヤボヤする。
キョロキョロと辺りを見回せば、先程までいた真っ暗な空間はどこにもなく、そこには女子高生の部屋があるだけだった。
息を吐き、顔をあげると、この部屋の主が心配そうにオレを見ていた。


 
天馬司
天馬司
 ここは⋯一歌の部屋だよな? 
星乃一歌
星乃一歌
 え?はい⋯そうですけど⋯ 
天馬司
天馬司
 ⋯⋯はぁ⋯⋯良かった 
天馬司
天馬司
 (終わった、のか) 


 
安心感から一気に力が抜ける。
立ち上がろうと手に力を入れようとすると、まだわずかに手が震えていた。
この手でさっき人を殺したのだと思うと、やはり怖くなる。
それでも、もうオレは逃げない。
「天馬司」の罪はオレが償わなくてはいけないのだから。


 
星乃一歌
星乃一歌
 あ、あの⋯? 


 
状況が理解できていない一歌は、不安げにオレの顔を見ている。
そんな一歌を前に、独り言のようにボソリと呟いた。


 
天馬司
天馬司
 一歌 
天馬司
天馬司
 オレは警察に自首をしてくる 
星乃一歌
星乃一歌
 え⋯えっ?! 


 
その言葉を聞き、一歌は驚いた顔をしていた。
しかし、その表情はどこか安心している様にも見えた。
自分の気持ちを整理するついでに、オレは話し始めた。


 
天馬司
天馬司
 渋谷連続殺人事件の真犯人は 
 オレのもう一つの人格だったんだ 
天馬司
天馬司
 さっきその人格と話をしてきた 
天馬司
天馬司
 そして、オレはソイツを殺した 


 
一歌が息を飲んだのが伝わった。
きっと一歌も理解したのだろう。
オレが一歌に真犯人を尋ねに来た理由も。
ソイツが救いようのない悪だったという事も。


 
天馬司
天馬司
 オレはアイツの行動を 
 肯定するつもりはない 
天馬司
天馬司
 だが受け入れなくてはいけない 
 この、残酷な現実を
星乃一歌
星乃一歌
 司さん⋯ 


 
もう一度手に力を入れ、立ち上がった。
未だに震えている手をギュッと握りしめた。
息を軽く吸い込み、一歌に向かって言った。


 
天馬司
天馬司
 朝から邪魔したな 
天馬司
天馬司
 それじゃあ、元気でな 
星乃一歌
星乃一歌
 ⋯司さん!! 


 
部屋を出ようとドアノブを掴みかけた時、一歌が声をあげた。
振り返ると、一歌は少し寂しそうな表情で言った。


 
星乃一歌
星乃一歌
 ちゃんと罪を償ったら、 
 美味しい物でも食べに行きましょう 
星乃一歌
星乃一歌
 ⋯⋯ずっと、待ってます 
天馬司
天馬司
 ⋯! 
天馬司
天馬司
 ああ! 


 
数日後、また今日もニュースが報道されていた。
しかし、今までのものとは少し違う。
「渋谷連続殺人事件の真犯人、逮捕か?」
突然神山高校に通う男子生徒の天馬司が自首をしたのだ。
彼は自ら凶器の隠し場所を吐き、すぐに警察に調査された。
百均の購入履歴を調べると、彼の証言通り一度に大量にナイフを購入した人物がいた。
そして、彼の自宅にあるナイフを調べると、被害者の血液の反応が見られた。
警察は現在も調査を続けているそうだ。


 
暁山瑞希
暁山瑞希
 だそうだけど、本当なの? 
天馬司
天馬司
 残念ながらな 
暁山瑞希
暁山瑞希
 そっかー 
天馬司
天馬司
 安心しろ 
 お前の事は言ってやらん 
天馬司
天馬司
 これ以上殺さないと誓うならな 
暁山瑞希
暁山瑞希
 ⋯はいはい、分かったよ 


 
天馬司の面会に来ているのは、後輩である暁山瑞希。
瑞希も殺人を犯しているが、捕まっていない。
それは警察の捜査不足とも取れるが、完全犯罪だとも取れる。
何にせよ、今の瑞希に自白する気はないようだ。


 
暁山瑞希
暁山瑞希
 そういや、穂波ちゃん 
 釈放されたんだって 
天馬司
天馬司
 おお、そうなのか! 
暁山瑞希
暁山瑞希
 今日来る時パン屋の前で 
 見かけたんだ


 
そう言って瑞希は上を見上げる。
お店の前で嬉しそうに一歌と微笑むあの顔を思い出しながら。
椅子の背もたれにもたれながら瑞希はポツリと言葉を零した。


 
暁山瑞希
暁山瑞希
 冤罪は、悲しいよねぇ⋯ 
暁山瑞希
暁山瑞希
 ⋯⋯⋯ 
暁山瑞希
暁山瑞希
 司先輩、自白するべきだと思う? 


 
司はガラス越しに瑞希を見つめた。
彼は少し思案し、口を開いた。


 
天馬司
天馬司
 その方が皆幸せになれるだろうな 
暁山瑞希
暁山瑞希
 ⋯そっか 
天馬司
天馬司
 だが、自分を責めるんじゃないぞ 
 類もそう言っていた
暁山瑞希
暁山瑞希
 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯そっか 
暁山瑞希
暁山瑞希
 ありがと、司先輩 
 考えとくよ


 
そう言って瑞希は司との面会を終えた。
その後瑞希がどのような選択を取るかは、知る由もない。
天馬司が捕まってからは、渋谷連続殺人事件の新たな被害者は出ていない。
本当に彼は真犯人だったのだ。
もうこれ以上人が死ぬ事はない。
憎しみが飛び交う事はない。
こうして渋谷連続殺人事件は幕を閉じた。
渋谷連続殺人事件 ー完ー


 
終わり。
ぱせりにうす
ぱせりにうす
 完結しました!! 
ぱせりにうす
ぱせりにうす
 長い間、沢山の応援
 ありがとうございます!! 


 

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