顔を上げると、ジョシュアさんが
新しいおしぼりを持って立っていた。
使ったものと交換して
水の入ったグラスも置いてくれた。
少しだけ目を合わせて
軽く会釈して…
ここまではいつものやり取り。
すると
すぐに立ち去るはずのジョシュアさんが
更に声をかけてくるとは思わなくて驚いていると、
テーブルに広げたレポート用紙を
指差して彼は言った。
えぇ〜っと…
何だっけ?正しいスペル…
突然のことに動揺して
スペルなんか思いつくはずもなく戸惑うしかない。
咄嗟にシャーペンを差し出すと
彼はレポート用紙の隅に
薄く、正しいスペルで英単語を書いてくれた。
発音も…すごく綺麗。
余計なこと言っちゃった…。
こんな簡単な間違いも正せず
英語が苦手だなんてことまで暴露して、
私、何がしたいんだろう。
いつもの優しい笑顔を残して
彼は去っていった。
せっかくなんでもないフリをしているというのに
こういうことが起きちゃうのはどうして…?
彼にとっては、接客ついでの
ほんの親切でしかないのに。
みっともなく動揺なんかして
それなのにちょっと嬉しくなったりして
やっぱり好きかもなんて
思ってしまう自分に少し腹が立つ。
レポート用紙の隅に薄く書かれた英単語。
「pleasure」=「喜び」。
私の心の中を見透かされたような気持ちになって
誤魔化すように消しゴムを手にするけど、
…消せない。
消せるわけない。
そのまま消しゴムをペンケースに押し込んで
振り切るようにレポートに集中することにした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!