第51話

伍拾壱話 兆しの深さ
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2025/08/30 12:00 更新





秋の風が、

ふとした瞬間に冷たさを

帯びるようになってきた。



朝、少しだけ薄紅色に

色づき始めた庭の木々を眺めながら、

僕は静かに息を吐く。



ジョングクは、まだ寝ている。

いや、本当はもう

目覚めているのかもしれない。



いつからか、彼は僕よりも

早く起きるようになったけれど、

それでも最近は、

僕の動きを感じるとわざとらしく

寝息を立てているのがわかる。



たぶん……

僕を気遣ってくれているんだ。

無理に起こさないように。

無理に背中を押さないように。



身体の調子が、

本当に“戻らない”。



ただの疲れか、

季節の変わり目のせいだと

自分に言い聞かせていた。

けれど、ふとした瞬間に

足元が揺れるような感覚がある。

立ち上がるだけで、

まるで空気が歪むような眩暈に襲われる。



そして、時折、

頭の奥から響くような痛みが___

鋭く、重く、刺してくる。



でも……それを、言えない。

テリンやジョンウン、リンファにも、

そして……ジョングクにも。



僕が顔を顰めれば、

あの人はすぐに気づいてしまう。

優しさの手が、真っ直ぐに

僕へと伸びてきてしまうから。



僕が苦しめば、きっと彼は、

自分の心臓を差し出してでも

僕を助けようとする。



泰亨
泰亨
 ……大丈夫、僕は平気 




呟いた言葉が、

自分でもあまりに弱々しくて、

思わず苦笑いがこぼれた。



それでも___僕は、笑わなきゃ。

何よりも、あの人の前では、

ちゃんと立っていたいんだ。

家族の、子どもたちの、

そして___ジョングクの“光”でいたい。
 


 

***




柾國
柾國
 ……テヒョン、
 顔色、悪くないか? 




朝食の準備をしていると、

いつの間にか背後に

気配があって、

温かい声がかかった。



振り返れば、

ジョングクが心配そうに

僕を見つめていた。



……ほらね、

やっぱり気づいてる。



泰亨
泰亨
 え? ううん、
 昨日少し寝不足だっただけ 




笑ってごまかそうとしたけれど、

ジョングクの目は鋭かった。

それでも何も言わず、

彼は僕の頬に手を添えて、

そっと額を寄せてきた。



柾國
柾國
 ん……熱は、ないか。 
 ……けど。




言葉の先は、飲み込まれた。

そのかわりに彼の指が、

静かに僕の髪を撫でる。

その手のひらの温かさが、

僕の胸に深く、

優しく沁み込んでいく。



怖かった。

何が、じゃない。

今この時間が___

この幸せが、

もし壊れてしまうとしたら、

それが怖い。



泰亨
泰亨
 ……ジョングク 




僕の声が震えた。



柾國
柾國
 ん? 

泰亨
泰亨
 __ずっと、
 こうしていたいね。 




そう言った僕に、

彼は笑って、

何も言わずにキスをくれた。

言葉はいらなかった。



ただ唇が重なる、

その温もりが、

何よりの返事だった。





***





夜。



部屋の灯りを落とし、

テリンとジョンウン、

そしてリンファの寝息が

遠く聞こえる頃。



僕とジョングクは、

並んで布団に入っていた。

それぞれの温度が

交わる静かな時間。



柾國
柾國
 …テヒョン 

泰亨
泰亨
 …なに? 

柾國
柾國
 …最近、
 あんまり食べれてないよね? 




やっぱり……

見てたんだ。



泰亨
泰亨
 味覚、ちょっと変なんだ。 
 季節のせいかなって……

柾國
柾國
 嘘、つけ 




彼は優しい声で、

けれど強く、言い切った。



柾國
柾國
 食べれてないの、知ってる。 
 歩くのもしんどそうで、
 朝は座ったまま
 動かない日もあった。 




言い返せなかった。

どれだけ隠しても、

この人の目は、

僕をすべて見抜いてくる。



泰亨
泰亨
 ……心配、させたくなくて 




僕がそう呟くと、

彼は無言で僕を抱き寄せた。

背中にまわされた腕が、

ぎゅうっと、僕を離さない。



柾國
柾國
 心配するに決まっているだろ 




耳元で、

静かに囁かれる。



柾國
柾國
 俺がどれだけ、
 テヒョンのことを
 好きだと思ってるんだ。 




その言葉に、

心の奥が温かくなった。
 

僕は、泣きたくなって、

けど泣きたくなかった。



泰亨
泰亨
 ジョングク… 

柾國
柾國
 何があっても、
 お前のそばにいる。
 だから……
 一緒にいよう、ちゃんと。 




うん。

僕も、そう思ってる。



けど__

この身体が、どこまで持つのか、

わからない。



いつかこの腕が、この心が、

壊れてしまったら。

それでも……

一緒に、いられるのだろうか。



そんな不安を、言葉にするには、

あまりにも今の時間が優しすぎた。



だから僕は、

ただ、彼の胸の中で目を閉じた。

そして、思ったんだ。



“もっともっと、君と生きたい。”



そう、強く___深く___願った。





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