朝の陽が障子越しに差し込む。
季節はちょうど、夏の終わり。
空気が少しずつ
秋の匂いを帯びてきた頃だ。
そう声をかけると、
テヒョンは「うん」と笑った。
けれど、
その声は少しだけ、
掠れていて。
笑顔の裏に、
無理を重ねているのが
透けて見えた。
テリンとジョンウンは高等部に進み、
リンファは中等部の二回生。
あの小さな手で俺の指を
握っていた日々は、
もう遠くにある。
それでも、
家の中はいつも温かかった。
……ここまでは、ずっと。
最近、テヒョンの様子がおかしい。
最初は“疲れているのかな”と思った。
けれど、台所に立つたびに
ふらつくようになり、
階段を上るのも、
時折躊躇するようになってきた。
何もないところで立ち止まったり、
急に肩を押さえて、動けなくなったり。
俺がそう言ったとき、
テヒョンは少しだけ黙って、
目を伏せた。
そう言って微笑んだ顔が、
どこか遠くて___
俺は、どうにもできない
自分に苛立ちさえ覚えた。
力も、美しさも、
昔と変わらないまま、
あいつは静かに、
少しずつ削られていっている。
それが、
目に見えるほどわかるのに___
俺にできるのは、
ただ、そばにいることだけ。
肩を抱き寄せる。額に口づける。
夜、うなされるように
寝返りを打つその身体を、
そっと抱きしめる。
……それしか、できない。
そしてある日。
テヒョンが、
小さくため息をついて言った。
俺は、
頷くことしかできなかった。
テヒョンが
“助けを求める”ということが、
どれほどの決意を伴っているか___
俺には、
痛いほどわかっていたから。
翌日、リサが屋敷を訪れた。
久しぶりに見るその姿は、
変わらず気品があり、
けれど、優しさをそのまま表情に
乗せたような人だった。
襟を少しだけゆるめ、
肌を見せるテヒョンの動作が、
どこかゆっくりしているのが、
胸に刺さった。
リサの指が、静かに脈を取り、
掌をあてがいながら、
わずかに顔をしかめたのを、
俺は見逃さなかった。
俺が声を出す前に、
リサは微笑んで言った。
言葉の端々に、わずかな違和感。
けれど、俺はそれを
問いただせなかった。
テヒョンの手が、
俺の袖をそっと握っていたから。
その手が、少しだけ震えていたから。
そう言って、
リサは静かに帰っていった。
その夜、
テヒョンは俺の肩に頭を預けて、
小さな声で言った。
俺は、何も言えなかった。
ただ、テヒョンの指を握り返し、
その温もりを確かめる。
それが、まだここに
“ある”ということだけが、
今の俺たちを繋いでいる、
唯一の“証”だった。
誰にも名前のわからない何かが、
少しずつ、静かに、
テヒョンの中で広がっていた。
___俺は、それに気づいていた。
けれど、まだそれを
認める言葉を持っていなかった。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。