逃げなければならない________
そう思った瞬間、人はだいたい逃げられなくなる。
足が床に縫い留められたみたいに動かない。
視線だけが、目の前の“それ”から外れなかった。
異形は、確かにこちらを見ていた。
いや、見慣れすぎている目だった。
異形は、軽く肩をすくめた。
その仕草すら、記憶の中のままだ。
その言葉で、空気が一段冷える。
が低く言った。声は震えていない。
けれど、それが逆に怖かった。
異形は一瞬だけ目を見開き、
それから、楽しそうに笑った。
笑顔が歪む。口角が不自然な角度で吊り上がり、
影が顔の半分を飲み込んだ。
誰も答えない。答えられない。
私に似た異形は、指先を軽く鳴らした。
その瞬間、周囲の空間が軋んだ。
壁に走る亀裂。
床が波打つように歪み、
現実が“耐えきれなくなっている”のがわかる。
私に似た異形の叫びで、ようやく体が動いた。
後ろに跳ぶ。
次の瞬間、さっきまで立っていた場所が
黒く、異様な形に削れていた。
攻撃だった。迷いのない、一撃。
そう呟いた声は、たぶん自分のものだった。
私に似た異形は、首を傾げる。
その目が、まっすぐこちらを射抜く。
次の瞬間、複数の影が動いた。
暗がりの奥。屋根の上。
壊れた街灯の向こう。
_______いる。
一体じゃない。
かつての??だった“異形”が、複数。
誰かが息を飲む。
異形たちは、誰も急がない。
逃げ道を塞ぎながら、
まるで“話し合い”をするかのように
距離を詰めてくる。
私に似た異形が言った。
その言葉に、背筋が凍る。
一歩、また一歩。
私に似た異形の影が重なる。
沈黙。
そして、私が歯を食いしばって言った。
声は小さい。でも、確かに意思があった。
拳が握られる。
一瞬、異形たちが静止した。それから、
私に似た異形が、懐かしそうに笑った。
異形の声が、少しだけ柔らぐ。
空気が張り詰める。次の瞬間_______
本当の戦闘が、始まった。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。