第97話

96話:安室side
29,183
2022/11/16 22:00
あなた
ごちそうさまでした。
あなた
相変わらず美味しかったです、ハムサンド。
安室透
それは良かったです。
安室透
またいつでもいらしてくださいね!











「はい。」とあなたさんは笑顔で答え、立ち上がる。











伏黒恵
……











彼もあなたさんに続いて立ち上がると、あなたさんの後ろを着いて歩いた。











安室透
お会計は二人別でよろしいですか?
あなた
いえ、一緒にお願いします。











あなたさんがそう言いながら財布を出せば、彼は慌てたように口を開く。











伏黒恵
自分で払いますよ。
あなた
いいの。気にしないで。
あなた
今日着いて来てもらって、荷物も持ってもらってるから。
伏黒恵
…そう言いながら月城さん、何かある度に俺に奢ってばかりでしょう。
あなた
えっ、そう?
伏黒恵
そうです。
伏黒恵
だからここは全部俺が払います。
あなた
え、私の分も?
伏黒恵
はい。











ハッキリと答える彼に、「それは申し訳ないから…」とあなたさんは困ったような表情を浮かべた。













するとその時、店内に着信音が響く。











あなた
すみません、私です。











あなたさんはスマホを取り出し、画面を確認した。











伏黒恵
…伊地知さんじゃないですよね?
あなた
え?違う違う!
あなた
野薔薇だよ!ほら!











あなたさんは疑いの目を向ける彼に、スマホの画面を見せた。











あなた
ごめん伏黒君。
あなた
私外で電話してくるから。
あなた
カードでも現金でもいいから、払っててくれない?
あなた
ごめんね!












あなたさんは彼に自分の財布を押し付けると、足早に店内から出て行った。











伏黒恵
……
伏黒恵
二人でいくらですか?












彼はこちらを見ずに訊いてくる。













金額を教えると、彼は当然のように自分の財布を取り出し、当然のようにそこからお金を出してきた。











毛利蘭
スマートだ…
鈴木園子
性格イケメン…











カウンター席からは蘭さん達のそんな会話が聞こえてくる。











伏黒恵
……











聞こえているだろうが、彼は全く反応しなかった。











安室透
…お預かりします。











会計をして、お釣りを差し出す。











伏黒恵
…本気ですか。
安室透
え?












すると彼はお釣りを受け取ると同時に、いきなりそう訊いてきた。













一瞬、何の事かと困惑するが、すぐに理解する。











安室透
…えぇ、もちろん。











こちらを見つめる彼の目を、しっかり見つめ返して答えた。











伏黒恵
…………
伏黒恵
あの人は…月城さんは
伏黒恵
幸せになるべき人です。











突然そんな事を言われ、思わず面食らう。













だがそんな僕の事はお構い無しに、彼は続けた。











伏黒恵
あなたや俺なんかよりも格段に小さいあの背中に
伏黒恵
月城さんは抱えきれないほどの重圧と責任を抱えています。
伏黒恵
それは他人がどうこうして負担が減るような、簡単な問題ではありません。
伏黒恵
…だからせめて、月城さんが疲れた時にはちゃんと疲れたと言えるような
伏黒恵
そんな支えになる人間が隣にいるべきなんです。
伏黒恵
それは俺じゃなくていい。












「…でも。」と言いかけ、彼は強い意志が宿っている目でこちらを見つめてきた。











伏黒恵
もし月城さんがまた泣くよう、傷つくようなことがあった時には
伏黒恵
俺はあなたを許しません。
伏黒恵
その時は俺が月城さんの隣に立ってみせます。












安室透
……












…これには素直に驚いた。













彼は自分の気持ちより、あくまであなたさんの幸せを優先するのだと。













…本気の目だった。











…え!?何!?
…どしたん、アレ。
なになに?揉め事?












するとその時、店の外が騒がしくなった。











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