見せられ続けている景色に何だろうかと首をかしげる。
俺はいない人間というより記憶を追体験する参加者みたいな、そんな雰囲気で。
目の前で俺の知らないあーずかいが動いて呼吸をしている。
朧げな記憶と言いたげに場面がコロコロと切り替わる
あの部屋で雷雨が鳴り響いていて、いつの間にかあーずかいと重なっていた。
軋む蝶番の音。
思わず息をのんだ。結末は想像できていたけれど、想像の何倍も怖くてしっかりとみていたくはなかった。
がらんと開け放たれたドアの向こうには、ベッドに倒れこむ母の姿があった。
何をしたのかは知らないが、カッターやクレヨンなどの文具が散らばり酷い鉄の匂いがした。
人はこういう時どうするべきかと知っていても行動には移せない、それを思い知るような無力感。
数秒ほど意識は飛んでいたのかもしれない、気づいた時にはスマホを片手に救急車と警察を呼び来るのを待っていた。
母には意識はなく、呼吸が曖昧だったもののどうにか息があり手は氷のように冷たかったが首筋は焼けているように熱を帯びている。
雷雨の音に紛れて救急車両のサイレンが家に近づいていた。
俺は母の子供であるにも関わらず、一緒に乗せて貰えはしなかった。
家が発見場所だったこともあり、事情聴取をしなければならなかったから。
最後に見た母の顔はいつの間にか伸びきった前髪で隠されており表情は愚か口が開いているのかすらわからない。
すっかり父の元へ行きたくてたまらない様子の母は何度もそういうことはしていた。
そのたびに俺に頭を下げ祖父に頭を下げ病院に感謝を告げていつもの母に戻っていたが、
何度もそういうことがあっては俺に悪いから、ともう会わないよう行政からも警察からも病院からも言われた。
それからこの部屋は移動させていないだけ、何も触っていない。
また戻ってきてくれるのかもってどこかで思っているからかもしれない。
放置していたらこんな状態になってしまったけれど。
軽く苦笑する。
「にゃーん」
と鳴き声が聞こえ、振り向くとルナが立っていた。
「にゃあっ」
どこ行ってたの!と言わんばかりに俺にすり寄る。
全員の足元に「そこに居る」という事実を確かめるようにすり寄って一通り撫でてもらう。
その後、おっPの元へしなやかに跳ぶ。
くるくると辺りを確かめるようにルナは歩く。
「んにゃっ!」
任せて!と言いたげに一鳴きして、そばでくるっと丸まった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!