ピンキの姿が消えた後、俺の心は砕け散った。
頭の中では、ウェンダの嗚咽と、サイモンの沈痛な声が響いている。
現実の音が、全てを押しつぶすように俺に襲いかかった。
痛い。苦しい。この痛みに、どうすれば耐えられる?
ピンキがいない世界に、俺はどうやって生きていけばいい?
サイモンが俺の肩に手を伸ばした。
俺はそれを振り払おうとしたが、彼の瞳に映る絶望の色を見て、手が止まった。
ウェンダもまた、顔を覆い、震える肩で罪悪感に苛まれている。
彼らもまた、俺と同じ、あるいはそれ以上の痛みを抱えているのかもしれない。
俺は、床に転がったヘッドフォンを見つめた。
これまで俺を現実から守ってくれていた、唯一の防具。
だが、今は、ただの黒い塊に見えた。
あのヘッドフォンから聞こえていたピンキの声は、確かに俺の心を救ってくれていた。
けれど、それは現実ではなかった。
掠れた声で呟いた。
それは、俺が初めて、口にした真実だった。
サイモンが大きく息を呑んだ。ウェンダは、顔を上げ、涙を流しながら俺を見つめている。
その瞳に、ほんの少し、希望のような光が灯ったように見えた。
その瞬間、ウェンダの顔から、一気に感情が消え去った。
その瞳は冷たく、無機質な光を宿したが、そこに狂気はなかった。
まるで、重荷から解放されたかのように、穏やかな、しかしどこか人間離れした表情に変わっていた。
彼女の口元には、微かな笑みが浮かぶ。
そう呟くと、ウェンダは静かに部屋を出ていった。
彼女の足取りは、どこか軽やかで、迷いがなかった。
それは、彼女のもう一つの人格が、完全に彼女を支配し、新たな「幸せ」を見つけたかのようだった。
サイモンは、その場に立ち尽くしていたが、やがて顔を上げた。
彼の瞳には、深い後悔の念が残っていたが、同時に、かすかな決意の光が宿っていた。
サイモンの言葉は、力強かった。彼は、自分の罪と向き合う覚悟を決めたのだ。
数日後、サイモンは、彼が害してしまった友人と再会し、長い時間をかけて話し合った。
その結果、彼の心から、幾らかの罪悪感が和らいでいくのが見てとれた。
彼の顔には、以前の明るさは完全には戻らないが、それでも前を向いて生きる意志が見えた。
俺は、サイモンやウェンダとは違う道を探していた。
あの日の絶望は、俺の心に深く刻み込まれていたが、いつまでもそこに止まっているわけにはいかない。
そんな時、偶然、クルーカーと再会した。
クルーカーは、相変わらずクールな佇まいだったが、彼の目には、確かな目標が宿っていた。
彼は、あの異常事態で失われた世界を、新しい技術と発想で再構築する事業を考えていると語った。
俺は、彼の計画に興味を惹かれ、共に働くことを決めた。
俺とクルーカーが立ち上げた事業は、想像以上にヒットした。
新しいシステム、人々の生活を便利にするアプリ。
俺は仕事に没頭した。徹夜で開発に打ち込み、新しいアイデアを形にする。
成果が出るたびに、大きな達成感と生きがいを感じた。
俺の耳には、もうヘッドフォンはなかった。
街の喧騒、人々の活気、そして仕事仲間たちの声。
それらが、俺の日常を満たしていた。
ピンキのことは、時折、ふと思い出す。
公園のベンチ。カフェでの笑顔。あの温かい手。
しかし、その記憶は、もう心の奥を抉るような痛みは伴わなかった。
遠い日の、美しい思い出として、心の中に静かに存在していた。
俺は、仕事の中で、新たな自分を見つけた。
それは、ピンキと過ごした日々とは違う、けれど確かに存在する俺の人生だった。
悲しみは完全に消えたわけではない。
だが、俺は、それぞれの道を歩み始めた仲間たちと共に、この世界で生きていく。
ハッピーエンド 〜それぞれの道〜
ウェンダ、サイモン、クルーカー、そしてオレンがそれぞれの道を前向きに進むハッピーエンド。
オレンがピンキの記憶を薄れさせていくという点は、
読者からすると少し悲しいかもしれません。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。