ウヨンは、触れない。
それが一番、厄介だった。
彼はいつも近い。
距離はゼロに等しいのに、指先はぎりぎり触れない位置で止まる。
「……逃げないんだ?」
低い声が耳元に落ちる。
あなたは壁に背をつけたまま、動けない。
「逃げたら、追いかけるよ」
笑っているのに、冗談に聞こえなかった。
最初は、ただの偶然、と自分に言い聞かせた。
練習室の前、廊下、エレベーター。
同じタイミングで会うことが増えただけ。
「また一緒だね」
その“また”が、回数を増やしていく。
ウヨンはよく観察していた。
呼吸の速さ、視線の揺れ、声のトーン。
「ねえ、」
「今、無理して笑ったでしょ」
言い当てられるたび、心臓が跳ねる。
理解される安心感と、
見透かされる怖さ。
その両方を、彼は与えてきた。
わたしは異常だ。安心感を覚えるなどあってはいけないことだ。早く普通に戻らなければ。
何度そう思おうとしても、彼の笑顔が怖さだけを感じさせない。
このときにはすでに、あなたはウヨンの術中にあったのだ。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。