第7話

ひょうきんジジイ
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2026/02/28 03:02 更新

 俺の名前は鶴丸国永。平安時代の刀工、五条国永が打った太刀だ。

 今日は暇だから、新入りにドッキリを仕掛けてみようと思う!

 鶴丸国永「まずは定番の落とし穴だな。この辺でいいか」

 光坊から拝借してきたしゃべるで地面を掘る。掘りやすい場所ってのは大体決まってるが、毎回同じ場所に仕掛けてちゃ驚きが足りん。

 というわけで今回は石が多いここに仕掛けようと思う。

 鶴丸国永「まずはこの石退けなきゃだな...まあ適当に空けときゃ大丈夫だろ」

 一人で石を運んでいると、通りかかったのは一文字則宗。

 一文字則宗「鶴丸よ、そこで何をしている?」

 鶴丸国永「おお、則宗!ちょうどいい手伝ってくれ。俺が石を運ぶから穴を掘ってほしいんだ」

 一文字則宗「あ~...穴掘りは腰をやりそうだな~...」

 ここで渋られることは想定済み。だが、こいつも俺と同じ類いのジジイだ。

 鶴丸国永「...実は新入りの松井江に驚きを提供しようと思ってな。あいつは最近篭手切と一緒に庭を散歩してるから、ここを通るかもしれんぞ」

 声を潜めて明かすと、則宗の肩がピクッと動いた。あと一押しの兆候だ。

 鶴丸国永「そしてここは畑から野菜を運ぶ時、時短によく使われる。つまり...?」

 一文字則宗「今日の畑当番は日光の坊主に南泉の坊主...引っ掛かるやもしれんなぁ...」

 鶴丸国永「そう。成功すればなかなか面白いものが見られると思わないか?」

 一文字則宗「...その話、乗った」

 秋田藤四郎「見てください松井さん!綺麗な紅葉ですよ!」

 秋田が指差す方を見上げると、真っ赤な葉が木の枝にびっしり生っていた。

 松井江「赤い...」

 篭手切江「凄いな。今年は一段と紅葉が美しい」

 秋田藤四郎「主君と僕達がお世話したんですよ。今年は皆で紅葉狩りですね!」

 篭手切江「ああ。楽しみだな」

 松井さんの方を見ると、じっと紅葉を見つめて何やら物思いに耽っている様子だ。

 篭手切江「松井さん?どうしたんですか?」

 松井江「!...ああ、ごめんね。ボーッとしてしまった」

 信濃藤四郎「なら俺を懐に入れて一緒にボーッとしましょうよ!」

 ヒョコッと現れた信濃は、返事も聞かずにいそいそと松井さんのジャージの中に入ってしまう。

 篭手切江「信濃、まだ松井さんは何も言ってないだろう」

 信濃藤四郎「最近冷えてきたし俺が松井さんの懐暖めてあげるー!」

 篭手切江「返事になってないぞ...」

 松井江「僕は構わないよ」

 篭手切江「松井さん、嫌だったら断らないとダメですよ?」

 信濃藤四郎「俺迷惑かけてないもーん」

 松井江「嫌ではないよ。むしろ暖かくて心地がいい」

 信濃藤四郎「ほら!松井さんが嫌がってないんだからいいんだよーぅ」

 篭手切江「まったく...」

 松井さんを縁側に連れて行って改めて懐に入り直す信濃を呆れて見ていると、鳴狐が近づいてきた。

 鳴狐「ありがとう、篭手切」

 篭手切江「ん?」

 鳴狐のお供の狐「今日はあるじどのも一期殿も任務でいらっしゃいませんので、粟田口の短刀達は寂しがっておりまして。篭手切殿が面倒を見てくださって本当にありがたいのです」

 篭手切江「私は大した事はしていない。主に自分達が不在の間は短刀達の事をよく見てやってほしいと言われているから、言う通りにしているだけだ」

 鳴狐「それでも...ありがとう」

 篭手切江「そういう事なら...気持ちだけ受け取っておくよ」

 そう言うと、鳴狐とお供の狐は同時にコクンと頷いた。粟田口の叔父として、一期がいない間少しでも短刀達の寂しさをまぎらわせてあげたいのかもしれない。

 篭手切江「でも、お礼なら私ではなく松井さんに言ってくれ」

 鳴狐「...?」

 鳴狐のお供の狐「松井殿に?」

 篭手切江「今日、ここに来ようと言い出したのは松井さんなんだ」

 私は松井さんにこの本丸に慣れてもらうため、毎朝散歩を提案する事にした。主にも名案だと言っていただいている。

 篭手切江「松井さん、今日はどこに行きますか?」

 篭手切江「焼き芋の季節ですし、少し足を伸ばして裏山にでも...」

 松井江「篭手切」

 篭手切江「はい?」

 松井江「今日は粟田口の皆の所へ行ってみたいのだが...ダメだろうか?」

 篭手切「ダメじゃないですよ。行きましょう」

 鳴狐のお供の狐「なるほど...松井殿が自ら我々の所に来たいと仰られたのですね」

 篭手切江「そうなんだ。本丸に来て一週間、はじめて自分の要望を言ってくれてね」

 鳴狐のお供の狐「それは良い傾向ですね。あるじどのが篭手切殿を教育係に指名した成果でしょうか」

 篭手切江「いや...恐らく主の影響だと思う」

 最初、主が松井さんに正面から向き合ったから。それが切っ掛けになったと私は思っている。

 篭手切江「主は凄い人だ。尊敬するよ」

 その時、物凄い音が聞こえてきた。

 信濃藤四郎「松井さんの懐あったか~い」

 五虎退「つ、次は虎君達と遊んでもらえますか?...できれば僕とも」

 乱藤四郎「松井さんの髪サラサラ~!ちょっとアレンジしてもいい?」

 薬研藤四郎「お前らー。程々にしとけよー」

 粟田口の短刀達に囲まれて、僕は今少し困っている。

 元居た本丸に粟田口は居なかった。いや、正確には僕が顕現して少し経った頃に全員折れたらしい。桑名から聞いた。僕は溜まりに溜まった書類に忙殺されて、最後に彼らと会ったのは彼らの最後の出陣の一月以上前だった。

 だから元気に喋って動く彼らを見て、どうすればいいのかわからない。

 鯰尾藤四郎「松井さん、どうしたんですか?」

 骨喰藤四郎「具合でも悪いのか?」

 左右から心配そうに覗き込んできた鯰尾と骨喰の顔を見て、意識が現在に引き戻される。

 松井江「いや、何でもないよ。すまなかったね」

 骨喰藤四郎「それなら良いんだ。もうすぐ主といち兄が帰ってくる」

 鯰尾藤四郎「松井さんが倒れたら主もいち兄も心配するもんね」

 松井江「そうなのか...ごめんね」

 骨喰藤四郎がじっと僕を見ている。不思議に思って聞き返そうと口を開くと、

 日光&南泉「「うわあああああああああ!?!?!?」」

 あなたの緋名子「...で、帰ってきて早々落とし穴に一文字二振りが落ちてたのはジジィ共のせいだと?」

 私の前にはいたずらを仕掛けた鶴丸と則宗が正座しており、隣には被害者であるところの日光と南泉が正座している。

 日光一文字「主、御前を責めないでくれ。悪いのはすべて御前をそそのかした鶴丸と、前方を歩いていたにも関わらず足元への注意を怠った俺とどら猫だ」

 鶴丸国永「日光!ひでぇと思わねぇのか!?」

 南泉一文字「実際、御前を落とし穴作りに誘ったのは鶴丸だろ、にゃ」

 あなたの緋名子「言い訳無用。ジジィ共にはイタズラの罰を与えます」

 あなたの緋名子「まず鶴丸、一週間の謹慎。監視は大倶利伽羅」

 鶴丸国永「え゛」

 あなたの緋名子「隠し通路もすべて塞いだ上でドッキリコレクションもすべて処分します」

 鶴丸国永「そんな殺生な!!」

 あなたの緋名子「黙らっしゃい。次に則宗、一週間畑当番。監視は加州清光」

 一文字則宗「老体を労れ!!」

 あなたの緋名子「あんたらジジィはやれ老体だジジィだ言っててもめちゃくちゃ元気じゃないの。その元気を本丸の食卓に役立てなさい」

 ピシャリと言うとガックリ項垂れた則宗と鶴丸。敬老の精神はこいつらには適用する必要はないと思うのだがどうだろうか。

 あなたの緋名子「松井江達に心配かけて、それでこの有り様でしょ?罰は当然よ」

 あなたの緋名子「大倶利伽羅、清光。ジジィ共が逃げようとしたら武力行使も辞さなくていいからね」

 加州清光「らじゃー。そんじゃ早速畑行くよジジィ」

 大倶利伽羅「立て鶴丸。自分の足で歩け」

 鶴丸国永「うえーん。伽羅坊が冷たいー」

 大倶利伽羅「知るか」

 こうしてひょうきんジジィ共は、それぞれの孫に回収されていった。

 一期一振「篭手切殿、松井殿。私が不在の間弟達の面倒を見てくださり、誠にありがとうございました」

 松井江「いや、改まって頭を下げられるほどの事はしていないよ」

 篭手切江「私達も楽しかった。お互い様だ」

 一期一振「本当に、ありがとうございました」

 改めてお二振りに一礼し、私は弟達が寝ている部屋へ向かった。

 音を立てぬようにそっと襖を開けると、兄弟の白山吉光が後藤に掛け布団を掛けてくれているところだった。

 白山吉光「背後に刀剣男士の感あり......一期一振と判別」

 一期一振「ありがとう、兄弟」

 白山吉光「なぜわたくしに感謝を?脈絡が不明です」

 一期一振「弟達に布団を掛けてくれたのは兄弟だろう?だからだよ」

 白山吉光「...そうですか」

 そこで会話が途切れる。兄弟は元々あまり饒舌な方ではない。

 一期一振「松井江...いいひとが来てくれたね」

 白山吉光「...」

 一期一振「主殿が気に掛けるのだから、余程悪い刀ではないのだろうけど、少し心配だったから。馴染んできているようでよかった」

 白山吉光「...あの本丸は、政府でも問題視されています」

 白山吉光「一刻も早くあの本丸の刀剣男士を救出しなければならない。それだけでは?」

 一期一振「兄弟にはそう見えるんだね。でも、私はそれだけではないような気がする」

 一期一振「彼はきっと、刀としての物語と人の身を得てからの経験に真摯に向き合おうとしているのだろう。紅葉を見つめていたと秋田から聞いてそう思った」

 松井江の刀としての来歴は全員が知っている。だが、資料に書かれている事以上の事もきっと抱えているだろう。

 一期一振「少し、主に似ていると思ったんだ」

 白山吉光「...なるほど。少しだけわかる気がします」

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