月も眠ってしまうほど深い夜。
暗闇でこそ本領を発揮する俺たちマフィアはまだ眠らない。
ガヤガヤと騒ぎ声が聞こえるも、廊下の奥に足を進めるとその声は遠くなっていく。
足がすくむ。情けないことに俺は恐怖を感じている。
あの人に何をされても抵抗してはいけない。
自分の身は自分で守れ。
誰も頼るな、俺は、、、俺はおじさんおばさんの恩に報いて、スンミナを必ず守らなきゃいけない。
死んだら負け。
そう自分に言い聞かせる。
あの人の部屋はアジトの奥深く最深部に位置する。
厭らしい穢れた手で俺を、、、汚れてるのは俺も同じか。
自分に価値なんてないのだとここに入って身をもって知った。
罵られて、殴る蹴るは当たり前。
その中でヒョンだけが俺を人間として扱ってくれた。
あの人にとっては俺もただの駒なんだろうけど。
ヒョンの前だけはヒトでいられたんだ。
初対面はあんなんだったけどヒョンは人を無駄に殺すのを嫌う。
一時の感情で殺めることなんてしない。
上手く仕事ができたらいい子だ、よくやった、って褒めてくれるんだ。
、、、兄さんがいたらこんな感じなのかな。
でももうこれも終わりだ。
俺があの人に抱かれればヒョンは俺を敵とみなす。
あの人はヒョンが俺を大事にしてるって勘違いしてるけど、ただ愛想をつかされるだけ。
あぁ、悲しむかもな、駒が減って。
そんなことを考える。時刻は指定されたのとピッタリ同じ時間を指している。
ノックをして部屋の前で待つ。
、、、おかしい、護衛がいない。
何故だ、あの人が人払いをした?馬鹿な。
人に見られた方があの人の狙いに合っているだろ。
キィィィ、、、
鍵すらもかかっていない。
意を決して部屋に足を踏み入れる。
あの人のお抱えの護衛達がみな揃って血を流して倒れている。
鉄の匂いが鼻を刺し、異常事態だと脳に警鐘が鳴り響いている。
それでも足は止まってくれない。
先へ先へと歩を進める。
好奇心がそうさせているのだろうか、足がすくんでいたのが嘘のようだった。
そこには全身を血で染め、歴代のボスしか座ることが許されていない椅子に腰かけたヒョンの姿。
足元にはあの人が転がっていた。
あんなに畏怖していた存在だったのに今ではすごく小さい存在に見えた。
驚きと恐怖で胸がいっぱいだ。
ヒョン、何したんですか、どうして?
聞きたいことは沢山あったのに言葉が出てこない。
フルフルと首を横に振る。
そういう割には俺の体は震えていて今にも逃げ出しそうなほど怖かった。
心臓の動悸がさらに早くなったのがわかった。
俺のせいで、人が死んだ?
ヒョンの視線が俺を射抜く。
ヒョンの視線が俺を試しているような気がした。
ヒョンは俺に何を求めてるの、?
力が手にこもる。知らず知らずのうちに首元の十字架を握りしてめていたようだ。
目線を俺のネックレスに移し、目の前に立つ。
ヒョンは冷笑を浮かべ、俺の首からネックレスを荒々しく引きちぎった。
俺が、、、ヒョンをヒトではなくしてしまった。
俺のせいで兄弟を殺めて、人生を狂わせてしまった。
俺を人にしてくれた貴方を俺が壊してしまったんだ。
冷たいものが頬を伝う。
ヒョンが俺の頬を撫でた。
泣いてる、、、?俺が?
どんなに大変でも涙すら出なかったのになぜ俺は今泣いているんだろうか。
ヒョンの存在が自分の中で大きくなっていたことを知ってしまった。
ヒョンの心を狂わせた俺に出来るのは罪を背負う事。
たとえ地獄に落ちてもヒョンに着いていくと誓った。
決して破れない誓いを立てて。
そしてヒョンは血にまみれたまま、俺を抱いた。
そう言って俺の首の噛み跡を愛しそうに見つめるヒョンの顔を俺は未だに覚えている。
離婚危機まで到達出来ませんでした😭
離婚危機過去編いる!!?
もう本編進みたいなぁ、なんて🤔
アンケート
次回
離婚危機過去編
56%
本編スタート(また色んな視点あります)
44%
投票数: 269票
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!