結灯処が姿を現すのは、決まって夕暮れだった。
昼間に同じ路地を通っても、そこには古びた壁と行き止まりしかない。
けれど橙色の空が夜に溶ける頃、灯籠の火がともる。
紬は、今日もその灯を見つけてしまった。
木戸を押すと、鈴が小さく鳴る。
朔忌はすでに店の中央に立っていた。
振袖姿の袖が、灯の明かりにやわらかく揺れている。
朔忌はわずかに首を傾げた。
意味のわからないことを、静かに言う。
紬は小さくため息をつき、掃除を始めた。
畳を掃く音と、紙の擦れる音が重なる。
朔忌が開いているのは、黒い帳面だった。
壁一面の本棚。
同じ背表紙の帳面が、整然と並んでいる。
紬は一冊に手を伸ばしかけて、止めた。
朔忌は少し考える素振りを見せる。
そのとき、灯籠の火がふっと揺れた。
店の空気が、わずかに重くなる。
朔忌の視線が、戸口へ向いた。
鈴が鳴る。
軋む音とともに、戸が開く。
紬は思わず、朔忌の袖を掴んだ。
赤い瞳が、静かに紬を見る。
穏やかな声。
その声音には揺らぎがない。
けれど、灯は揺れている。
来訪者が、ゆっくりと足を踏み入れた。
紬はまだ知らない。
この帳面の一冊に、
いつか自分の名が記されるかもしれないことを。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。