第38話

ジン×牽制
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2026/02/21 13:35 更新





今日もハンター協会の廊下には、忙しなく靴音が響いていた。

書類を抱えた職員たちが行き交い、どこからともなく怒号やため息が漏れてくる。





『ジンさん!お願いだから早く書類出してください!
 締め切り今日なんですよ!?』





必死な声を上げながら、小柄な少女が廊下を駆けていた。涙目になりながら男の後を追うその姿は、周囲の視線を集めている。




「うるせーな。
 別に少しくらい遅れたって変わんねーだろ」





前を歩く男は、面倒くさそうに片耳を塞ぎながら振り返りもしない。




『変わります!ジンさんの担当である私が怒られちゃう
 んです!』




男は足早に廊下を進むが、少女も負けじとそのペースに喰らいつく。




「ったく、しつけーな」


『しつこいじゃないです!ジンさんがちゃんとしてくれればいい話なんです!』


「知るか。んなもん俺が守るかよ」




気だるげに横目で少女を見るその男ジン=フリークス。
無精ひげにだらしない服装、やる気の欠片も感じられない態度。

だがその正体は、ハンター協会でも指折りの実力者であり、数少ない二ツ星ハンターの称号を持つ遺跡ハンターだった。

























「……なんで私がジンさんの担当に
 なっちゃったんだろ……」





少し遅めの昼休み。
同僚と向かい合いながら、あなたは弱々しく呟いた。


会議は遅刻か無断欠席。
興味のある依頼しか受けず、協働任務でも勝手に単独行動。
提出書類は期限を守った日のほうが珍しい。



まさに天上天下唯我独尊。
そんな男をそう易々と野放しにしておくわけにもいかなくなり、監視、指導を目的としてハンター協会の職員から1人、ジン=フリークスの専属職員が選ばれることになったのだが、そこに白羽の矢が立ったのがあなただった。


業務内容はジンのサポート全般。
聞こえはいいが、要するに雑用係である。




『全然お願い聞いてくれないし……急に消えるし……
 提出書類は間に合わないし……』




同期の女性は、慣れた様子で彼女を慰めた。




「でも、あなたしか務まらないんじゃない? あの人」


『そんなこと……』





そう言いながら、あなたは机に顔を伏せ、束の間の休憩を噛み締めながら多忙な午後を想像して小さくため息をついた。













  












休憩を終え、ジンに確認してもらう書類を抱えて廊下を歩いていると、前から同僚の男がやって来た。

顔が隠れるほど積み上げていたため視界が塞がれていたあなたは、危うくぶつかりそうになり慌てて謝る。
同僚はそんなあなたを見かねて手伝うと申し出てくれた。




『ほんと?!ありがとう!』




実はこの同僚、入社してからあなたにずっと好意を寄せていたのだ。しかし同じ課に配属されてすぐあなたはジンの担当になった為、個人的な接点が今まで数えるほどしかなかった。

そんな中、この男はまたとない機会を逃すような奴では無い。

あいにく廊下には2人きり。
隣に並ぶあなたの横顔を盗み見ながら意を決して、食事に誘おうと口を開く。








だが。











「おう、あなた。何してんだ」




背後から降ってきた声に、二人は同時に振り返る。

そこには、つい先ほどまで眠りの底に沈んでいたかのような眼差しをした男が立っていた。




『あ! ジンさん!』




駆け寄るあなたを見て、同僚は目を見開いた。

ジン?あの男が?本当に噂のジン=フリークス?
想像していた威圧感はない。
だらしなく頭を掻く姿に、正直拍子抜けすらした。




『ちょうど今、ジンさんの部屋に書類持って行くところだったんです!自分のなんだから少しは手伝ってください!』





面倒くさそうにあなたに説教されているジンの姿を見て同僚は内心、これなら十分渡り合える。むしろ勝てるんじゃ無いか?と呟き、安堵した。

しかし、その自信も長くは持たない。




「ったく、しょーがねーな」





ジンはそう言うと、同僚が持っていた書類を半ば、というか完全に奪い取るような形で手に取る。




「あー誰だっけお前。ま、いいや。
 あなたの世話ご苦労さん」





同僚は言葉を失った。否、反応できなかった。

書類をぶん取られるほんの一瞬、ジンと目が合った瞬間、同僚はまるで時が止まってしまったかのように動けなくなった。
たった一瞬、されど一瞬。

その凍てつくような鋭い瞳と己に降りかかる途轍もない圧は、まるで自分の獲物を取られまいと牽制する狼。



息をすることさえ忘れた同僚をよそに、あなたはジンに食ってかかる。





『世話じゃないです!手伝ってくれただけです!それに誰だっけは失礼ですよ!』



「お前がチンタラしてんのが悪りーんだろ」



『元はと言えばジンさんが仕事してくれない
 からでしょ!』



「だから今やってんじゃねーか」



『いつもやってください!』





言い合いながら、二人は足早に廊下を進んでいく。
嵐のように去っていく背中を、同僚はただ見送るしかなかった。


ポツリと1人取り残された同僚は、あの人がライバルは無理だ次元が違う勝てる気がしない。よし、諦めよう。と自分が存在ごと消される前に己の気持ちを消し去ろうとすぐさま心に決めた。



























そしてまた今日も。



『ジンさーーん!お願いだから仕事してくださいよ!』




あなたの必死な声が、協会の建物に響き渡る。

周囲の職員たちは苦笑しながら思う。
あの二人、また今日もやってるな、と。

不器用で、自由で、どうしようもない男と、
それを必死に追いかける担当職員。


その関係が、当分変わることはなさそうだった。








































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