あなた視点
月が映える暗い夜。いつものように依頼を遂行するため、ターゲットの屋敷に侵入する。
今回の仕事は大富豪のカルディナ氏から特定の情報を聞き出すという、ターゲットを敵視する人物からのよくある依頼。
(別にその程度の事で暗殺者に依頼するなんて
ある意味凄いわよね…)
それでも依頼金を弾まれてしまっては断る訳にもいかない。警備網を潜り抜け、ターゲットの寝室の扉の前まで辿り着く。
そして、お願い今回こそは。と願いながらひとつ息を短く吸い、静かに扉を開ける。
するとそこにはベッドに横たわるカルディナ氏_______
と、1人の男。
『………は?また?!』
後ろ姿しか見えないが、個性的な服に美しく長い黒髪。おまけにこの気配の隠し方の上手さ。
そんな人物一人しかいない。
イルミだ。
「ああ。あなたか」
くるりと私の方に体を向けたイルミの手には念の籠った針が3つ。そこでハッと嫌な予感がしてカルディナ氏に目線を移す。
『え、うそでしょ………』
ベッドには見るも無惨に殺された男の姿が。
これはもしかしなくても…………
ダブルブッキングだ。
「あれ?今回も同じターゲットだったの?」
『うん……しかも、私の依頼はこの人から情報を取り出すものだったんだけど…』
一足遅かった。
一泡の希望を抱いてカルディナ氏の呼吸を確認するが、流石一流暗殺者のイルミだ。
確実に息の根が止められている。
そういう意味で安らかに眠られては困るのだけど。
(どうしよう…また依頼失敗だ……)
最近……というか、半年前からイルミと依頼が被ることが増えた。それも高確率で。
その上直近1ヶ月は私の仕事全て被っている。
いくらイルミが一流暗殺者で沢山依頼を受けていると言っても私の仕事と全部被ることある?
フリーの暗殺者である私の実力が不安だからだとしても、依頼内容が違うのもおかしい。
それに、今回の依頼金は全額前払いしてもらっている。
だから失敗した場合は依頼金を全額返金するだけでなく、私が違約金を追加で払わないといけない羽目になるのだ。
(依頼金は5億円。違約金は依頼金の8%だから………
よ、4千万……)
自分の貯金から払えない額ではないが、暫くは確実に節約生活になるだろう。
ガックリと肩を落として絶望する私を他所にイルミは抑揚のない声で話しかけてくる。
「俺と依頼が被るなんて運が悪かったね。」
『慰めるくらいなら私の違約金払ってよ……』
こう何度も何度も依頼を潰されては私の生活が立ち行かなくなってしまう。
「それは無理だけどディナーくらいなら
連れていってあげる。」
そうだった。イルミってお坊ちゃんなのにお金に関してはきっちりしてるんだった。
ちぇっと心の中で悪態をつく。
(ふん!どうせなら1番高いお店で沢山食べてやる!)
今だけは仕事のことは忘れよう。そう息巻いてイルミと共にカルディナ氏の邸宅を出る。
そして、この1週間で2度。
1ヶ月換算だと4度。
そして今日で________七度目。
『………なんでまた被ってんのよ!!!』
「あなた五月蝿いよ。警備に気づかれる」
抑揚のない声が夜気に溶ける。
月明かりの下、黒髪を揺らしながら振り向くイルミの表情は、相変わらず人形みたいに整っていた。
(おかしい……)
いくら暗殺業界が狭いとはいえ、ここまで同じターゲットに当たるものだろうか。
(いやどんな確率だよ……)
しかも毎回、私の依頼は「情報を聞き出す」系。
イルミは「確実に始末する」依頼。
つまり________私は毎回、後手。
「また俺の方が早かったね」
淡々と告げられる事実。
その度に私の口座のお金は違約金として消えていく。
(偶然にしては出来すぎてる)
その夜、私は珍しくイルミの誘いを断った。
『今日は帰る。ディナーいらない』
「そう」
それだけ言って、イルミは止めなかった。
_________止めなかったことが、逆に引っかかった。
続きます。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。