第37話

ヒーローだから
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2024/06/30 15:00
ロウが去っていった直後、




派手そうな女の子が話しかけてきた




「あれ?無能ちゃんじゃな〜い?」




「うわほんとじゃん?!久しぶりだね〜ww」




…なんだかすごく嫌な感じがする




髪の毛は染めてあって服はゴテゴテ




私には縁のなさそうな人だし…




無能、なんて私じゃない、よね…




「すみません、私記憶をなくしてしまってて…」




「あ、そ、じゃあ取り戻してあげる!」




不意打ちで鳩尾を殴られる




「っ…げほっ…」




「きゃははwwさいっこう!」




「どぉ?思い出せた?あんたが無能だってことw」




まるでいつかの夢のあの子じゃないか…




いや、違う




この痛みを、この嘲笑いを




私の全てが覚えてる




そうだ




あれは私。




天使のくせに治癒能力が使えない無能な私だっ…




「っ…ぅぁ…」




「ねぇこいつこれだけで泣いてるんだけど〜ww」




「本当に無能ってかわいそww」




やだ




もう弱くない




私は私の力で才能を認めてもらったのに




天使だって、治癒が使えないってバレたら…




もう、全部おしまいか…(笑)




ロウにだけはバレたくない




写真の私は長袖ばかり着ていたのだって




全部私の生きた証を隠してたんだね




でもごめんなさい




もう無理だよ…




この嘲笑いに屈して




ただ暴力を振るわれるだけの私なんてもう




無能でしか、ないんだっ…




楽しいって思った私が馬鹿だった




幸せなんて一瞬。




…願っちゃ、いけなかったんだね




「てかさ?




 お前無能のくせになんで男連れてんの?」




「え〜?!うそ〜」




「しかもイケメンww」




「うわあれじゃね?




 レンタル彼氏?ってやつww」




「…っ違う!ロウはっ…」




「いいからお前は黙ってろ?」




「正義ごっこでちゅか〜?




 てか物好きだねそいつもww」




ロウを馬鹿にされるのだけは許せなかった




掴みかかっても結局振り払われて




治癒であっちは治るけど




私の傷はこころもからだも癒えないままで




「やば時間すぎたんだけどぉ…」




「じゃっ、まったね〜無能ちゃん?




 立場、弁えろよ?」




ほーんと、もう疲れちゃうな




こんなことでボロボロ涙が溢れる私も




全部全部、だいきらい




君だけいれば、もういいよ




トイレに駆け込み、嗚咽を漏らして泣き叫ぶ




「なんでっ…なんで私なのっ…」




優れた容姿もこの能力も




「いらないよっ…私もっ…普通がよかったっ…」




普通に笑って生きて




普通に死にたかったな




ロウに会えて、ヒーローに会えて




全部幸せになった気がしたけど




もう十分なんだ




無能にはこれぐらいで十分




もうたくさんもらったからさ?




あとは誰かの消えてほしいって言葉に答えなきゃ




だって私、ヒーローだからさ。




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