合宿の最終日、最後の練習試合として梟谷と試合をしていた烏野高校は僅差で負けたが日向と影山が新しい速攻を見つけることが出来た試合にもなった。
嬉しそうに抱き合っている蒼來を見詰めている赤葦の胸には、少しの嫉妬心が芽生え周りの人に気付かれないように拳をグッと握りこんでいると此方を見てきた日向は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
ネット越しに火花を散らしている赤葦と日向、そんな事も知らずのんびりとしている蒼來は男同士のプライドを掛けた戦いが繰り広げられている事に気付かないのだ。
合宿の打ち上げでバーベキューをする事になりBBQグリルの上で野菜や肉を焼く係になった蒼來は、同じマネージャーである清水と谷地、他校の雀田達の分も焼き終え一人木陰に座りワイワイと賑わっている様子を見ていた。
熱いグリルの前に立っていたから火照っている身体を冷まそうと、着ているTシャツの襟元をバタつかせているとペッドボトルを持った赤葦が歩み寄ってきた。
ニコッと笑みを浮かべる蒼來だが、その柔らかそうな頬は赤らんでいて少し心配になった赤葦は腕を伸ばすと頬に手を触れさせた。
そっと視線を背後に向けると皆バーベキューに夢中で此方に視線を向ける人の姿は見えない、赤葦とこんなに親密になっている所を他の誰かに見られたらと思うと恥ずかしさや照れが心の中に溢れてしまう。
今も赤葦が隣に居るだけでこんなに心臓は早く脈打っている事を感じられたくなくて蒼來は彼の瞳を見れずに居た、少し消極的な雰囲気を感じ取った赤葦は頬から手を離すと隣に座り口を開く。
少し離れた場所で梟谷のキャプテンでもある木兎の騒がしい声が聞こえ始め赤葦は名残惜しい気持ちを感じながら、蒼來にペッドボトルを渡すとその場から去ってしまう。
残された蒼來は渡されたペッドボトルを見詰めながら、今夜何かが変わるような気持ちを感じていると清水に呼ばれ戻るのだった。
空が闇へと包まれそれぞれが就寝時間まで思い思いに過ごしている中、一人マネージャー達が集まっている部屋から抜け出した蒼來は人気のない体育館前の入口のベンチに座っていた。廊下の光は消灯されていて暗闇に包まれているから、少しだけ一人ぼっちなことに怖さを感じながらも赤葦が来るのを心待ちにしていた。
窓から差し込む月明かりを眺めていると、廊下の奥から足音が聞こえ始め視線を向けると慌てた様子で駆け寄ってくる赤葦に蒼來は首を傾げた。
バタバタと騒がしい足音が聞こえ始めアタフタしていると赤葦に腕を引かれ階段横にあるロッカーに入り込む、赤葦の名を呼びながら体育館前に現れたであろう木兎は当たりを見回している気配をロッカーの中から感じる。
狭いロッカーの中で蒼來を抱き締めながら扉の空気口から外を覗いている赤葦、力強い腕に抱き締められながら胸元に顔を埋めて呼吸を止めている蒼來の頭はパンク寸前。
ロッカーへと歩み寄ってくる足音に蒼來は、この状況に我慢の限界が近づいているのを感じながらグッと赤葦のTシャツを握り必死に目を閉じた。空気口から見える木兎がロッカーに手をかけようとしたその時、思ってもみなかった人物が現れた。
楽しげな会話をしながらその場から離れてゆく日向と木兎の気配に、ホッと息を吐き出した赤葦はロッカーの扉を静かに開け蒼來の身体を抱き締めながら外に出る。
「大丈夫」と言いかけた赤葦の息は詰まった、何故なら胸元にしがみついている蒼來の顔は真っ赤に染まりプルプルと肩を震わしているからだ。
肩を激しく上下させながらゆっくり息を吸い込んでいる蒼來の背中を撫でている赤葦は、彼女の手を引きベンチに座らせると口を開いた。
真っ直ぐに蒼來を見詰めてくる視線と嘘偽りの無い言葉が蒼來の心を高鳴らせて脈が早く打ち始めた、赤葦に「異性として見て欲しい」と言われた日から考えていたが蒼來の心はとっくに決まっていた。
笑顔を見せながらそう言葉を呟いた蒼來が、何だか頼もしく見えて嬉しい赤葦はそっと華奢な身体を抱き締め肩を顔を埋めながら呟いた。
背中におずおずと回された細い腕を感じながら、赤葦はこの一時がもう少しだけ続くようにと願わずにはいられないのだった。
合宿最終日を終えて宮城へと戻ることになった烏野高校、お互い別れや励みの言葉を交わしている中で蒼來と赤葦は一夜明けてより一層恋慕が深まっていた。
遠くから聞こえてきた清水の声に返事を返し赤葦から離れようとすると片腕を引かれ少し強めに抱き締められた、突然の抱擁とその光景に周りに居た生徒達が目を見開いている。
漸く顔を見せてくれた赤葦の表情はほんの少しだけ憂いを帯びているように見えた蒼來は、笑顔を浮かべ背伸びをすると頬にキスを落とした。その行動に目を見開いた赤葦が頬に手を当て呆然としている様子に蒼來は言葉を呟く。
花が綻ぶような笑顔が赤葦の心に焼き付いて離れなくなったのは烏野高校が乗ったバスが出発してからだ、一目惚れから始まった恋は新たな関係を作り二人の恋は形を成していくのだった。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!