〜海人side〜
コンコン
職員室の扉をノックした
理由は平野先生に呼ばれたから
……俺まじで怒られんのかな
そんなことを考えながら
職員室の扉を開き
声を出した
こっち来て、と手招きされ
相談室に連れて行かれた
平野先生は俺の向かいの席に座った
そこから続く短い沈黙
……気まずい
チラッと平野先生を見ると
何か困っているような顔をしていた
平野先生は悲しそうな顔でこちらを見ている
…あぁ、そんな目で見ないでよ
どうしてみんな同じ顔をするの…?
本当のことなんて言いたくなかった
家族が居なくなって
自分を愛してくれる人が居なくなって
そんなツラさが他の人に分かるはずもないから
俺は今日も嘘を付く
ずっと『大丈夫』としか言われてこなかった
だってみんな『大丈夫』って言えば
なんとかなると思ってるんだから
……そんなわけなかった
『大丈夫』なんて言葉が大嫌いだった
だって、大丈夫じゃないのにッ………
俺はとてつもなく悲しくてツラいのにッ……
…俺はずっと『頑張ったね』の一言がほしかったんだ
自分が生きていいと思える
そんな言葉がほしかった
自然と涙が溢れてきた
一度出た涙は止められなかった
先生の前なのに…
そんなことを思った時
ギュッ
俺の顔の目の前には
平野先生の黒髪があった
体全体に伝わってきたあたたかさで
俺は平野先生に抱きしめられてるのだと
理解した
トントンと背中を優しく叩きながら
平野先生は言った
平野先生のあたたかさが
家族がくれたあたたかさに似ていた
自分の思いを全て吐き出した
我慢ができなかった
ずっと探してたあたたかさに出会えたから
……好きな人に抱きしめてもらったから
一瞬平野先生が何を言ったのか
わからなかった
そんなこと俺だって思ってたよ、
そう伝えたくても声が出なかった
こんな俺でいいの…?
そんな疑問が頭をよぎった
平野先生と一緒にいたい
それでもッ……
俺は平野先生の隣にいて良い存在じゃない…
ここでは生徒と先生
隠し通すことなんてできるはずがない
俺はそう言い放ち
席を立った
平野先生に抱きしめられたところが
まだあたたかさを残している
そのまま扉を開け
廊下に出た
まだ春の肌寒さは残っており
俺の体も冷たくなりそうなほど寒かった
自分の気持ちに言い訳をつけて
平野先生を拒絶した
…俺は嘘つきだ











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!