第8話

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2025/04/13 08:00 更新



〜海人side〜



コンコン
職員室の扉をノックした
理由は平野先生に呼ばれたから
……俺まじで怒られんのかな
そんなことを考えながら
職員室の扉を開き
声を出した



海人
すみません。1年A組の髙橋海人です。
海人
平野先生はいらっしゃいますか。
紫耀
お、髙橋
紫耀
ちゃんと来たんだな
海人
…はい



こっち来て、と手招きされ
相談室に連れて行かれた



紫耀
ここ座って
海人
…わかりました



平野先生は俺の向かいの席に座った
そこから続く短い沈黙
……気まずい
チラッと平野先生を見ると
何か困っているような顔をしていた



紫耀
……聞きたいことがあって、
紫耀
髙橋、何かあったのか?
海人
…ッ



平野先生は悲しそうな顔でこちらを見ている
…あぁ、そんな目で見ないでよ
どうしてみんな同じ顔をするの…?



海人
なんにも、ないです…
紫耀
……



本当のことなんて言いたくなかった
家族が居なくなって
自分を愛してくれる人が居なくなって
そんなツラさが他の人に分かるはずもないから
俺は今日も嘘を付く



紫耀
……話したくないんだよな
海人
…!
紫耀
何があったのか俺には分からない
紫耀
でも……これだけ言わせて





紫耀
"今までよく頑張ったね"





海人
ッ……!



ずっと『大丈夫』としか言われてこなかった
だってみんな『大丈夫』って言えば
なんとかなると思ってるんだから
……そんなわけなかった
『大丈夫』なんて言葉が大嫌いだった
だって、大丈夫じゃないのにッ………
俺はとてつもなく悲しくてツラいのにッ……





…俺はずっと『頑張ったね』の一言がほしかったんだ





自分が生きていいと思える
そんな言葉がほしかった



海人
ポロポロ…



自然と涙が溢れてきた
一度出た涙は止められなかった
先生の前なのに…
そんなことを思った時



ギュッ



海人
ぁ……ポロポロ



俺の顔の目の前には
平野先生の黒髪があった
体全体に伝わってきたあたたかさで
俺は平野先生に抱きしめられてるのだと
理解した



紫耀
髙橋はよく頑張ってるよ
紫耀
安心して、俺がいるから



トントンと背中を優しく叩きながら
平野先生は言った



海人
……あたたかい、ポロポロ



平野先生のあたたかさが
家族がくれたあたたかさに似ていた



海人
……ずっとッ、ずっとッ、ツラかったッ、ポロポロ
海人
家族が死んじゃって、毎日苦しくてッ
海人
誰からもッ、愛されなくなってッ…
海人
それがとってもッ、悲しかったの…ポロポロ



自分の思いを全て吐き出した
我慢ができなかった
ずっと探してたあたたかさに出会えたから
……好きな人に抱きしめてもらったから



紫耀
……俺じゃダメ、?
海人
…え、ポロポロ



一瞬平野先生が何を言ったのか
わからなかった



紫耀
…俺さ、髙橋に出会った時から
紫耀
髙橋のこと目で追うようになってた
紫耀
髙橋に会えないだけで寂しく感じたんだ
紫耀
髙橋に早く会いたいな、早く明日になってほしいなって



そんなこと俺だって思ってたよ、
そう伝えたくても声が出なかった



紫耀
だから俺が髙橋のそばにいたい…
紫耀
出会ったばかりだけど、俺は……



紫耀
髙橋が好きだ



海人
ッ……



こんな俺でいいの…?
そんな疑問が頭をよぎった
平野先生と一緒にいたい




海人
俺も好きですよ…
海人
平野先生のこと、
紫耀
…!



それでもッ……
俺は平野先生の隣にいて良い存在じゃない…
ここでは生徒と先生
隠し通すことなんてできるはずがない



海人
でも…俺は生徒です
海人
だから、ごめんなさい…
紫耀
ぁ…



俺はそう言い放ち
席を立った
平野先生に抱きしめられたところが
まだあたたかさを残している
そのまま扉を開け
廊下に出た
まだ春の肌寒さは残っており
俺の体も冷たくなりそうなほど寒かった



海人
…平野先生、
海人
また明日、



自分の気持ちに言い訳をつけて
平野先生を拒絶した
…俺は嘘つきだ



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