美味しそうなハンバーグ。
溢れる肉汁に、翔太は目を光らせた。
大きく切った一切れを、大きな口で頬張る。
涼太が笑って翔太の口を拭うと、翔太は目を閉じて大人しく待つ。
嬉しそうに笑う翔太。
…翔太は不思議だ。
親が殺されたってのに、笑っている。
いくら愛されていなかったとはいえ、さすがに狂っているのではないだろうか。
死人を見るのは、そんなに簡単な事か?
目の前の肉を見る。
デミグラスソースが、あの赤黒く変色した、液体に似ている。
それに包まれた肉は、魂を失った人を思わせて。
…今、思い出すんじゃなかった。
気持ちが悪い。
照が俺を支えて、立ち上がった。
翔太が首を傾げて俺を見た。
…これじゃあ、どっちが不幸なのかなんて、分からない。
水の入ったペットボトルを渡されて、大人しく受け取る。
…何だか、バカみたいだ。
あれだけ殺してほしいと願っていたのに、気持ち悪いと外に出て、水を飲んで心を落ち着かせる。
俺は、何がしたいんだろう。
だから、その優しい瞳で俺を見るなよ。
勘違いする。
…俺が死んだら、悲しんでくれるかなって。
少し、言い淀むのは、なぜ。
そんな疑問を口に出す勇気は、俺にはまだなくて。
睨みつけると、照は親のように微笑んだ。
…その発言は、明らかに矛盾しているように思えた。
「大人になってから殺したい」
「はやく殺されたい」
よく言えば、お互いの意見の真ん中を取っている。
悪く言えば、矛盾。
照は矛。
きっと、何でも突き抜くことができる。
そして俺は盾。
…でも、矛には負けるだろう。
その事実は、まるで矛に、
「いつでも殺せるけど、様子を見ているだけだ」
と言われているかのよう。
店から翔太と、それに続いて涼太も出てきた。
慌てて照を見てみると、驚いたような顔をしていたが、呆れたように笑った。
わざとらしく笑う涼太に、照はいつも通り笑う。
俺はいつ殺されても、きっと、いい。
照が飽きるまで、そばにいよう。
俺が殺される、その時まで。
矛盾が壊れる、その時までは。
「矛盾」のエピソード、皆さんご存知ですか?
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その矛は何でも突き抜く。
その盾を突き抜けるものはない。
なら、その矛でその盾を突き抜いたら?
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といった話です。
この話を知った時、面白いなと思ったんですよ
なんていう、私の独り言でした笑
見てくださってありがとうございます!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。