夕方の静かな楽屋には、俺と奨くんの二人だけが残されていた。
他のメンバーたちが先に撮影へと向かい、バタバタとした騒がしさが遠ざかった部屋は、妙に広く感じられる。
俺はソファに深く腰掛け、次の仕事の資料に目を落としている奨くんの横顔をじっと見つめていた。
いつもみんなの先頭に立って、どんな時も笑顔で俺たちを支えてくれるリーダー。
だけど、その優しさの裏で、時々この人がどこか遠くへ行ってしまいそうな、不思議な寂しさを感じることがある。
資料をまとめ終えた奨くんが、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべて立ち上がろうとした。
その瞬間、胸の奥から湧き上がった衝動に突き動かされるように、俺の身体が勝手に動いていた。
差し伸べた俺の手が、奨くんの逞しい手首を強く掴んでいた。
突然のことに驚いた奨くんが動きを止め、丸くした瞳で俺を見つめる。
掴んだ腕から伝わる彼の体温が、驚くほど温かくて、だけどここで手を離したら、またいつもの『みんなのリーダー』に戻ってしまう気がした。
いつもより少しだけ低くなった自分の声が、静かな部屋に響く。
俺は掴んだ腕を引き寄せるようにして、さらに距離を詰めた。
奨くんの瞳に、困惑と、ほんの少しの動揺が走るのが分かる。
いつも余裕のある最年長が、俺の一言でこんな風に視線を彷徨わせている。
それが、どうしようもないほど愛おしかった。
真っ直ぐに視線をぶつけると、奨くんは一瞬呆然としたあと、観念したようにふにゃりと目元を緩めた。
そう言って、掴まれたままの手のひらで、俺の頭を優しくぽんぽんと叩いてくれた。
その温かい手のひらの感触に、俺の胸の奥は、これ以上ないほどの幸福感で満たされていった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。