第9話

まさに、平らな草地みたいな人だ……
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2026/01/31 05:40 更新
風に乗って、乾いた土のにおいが鼻の奥まで入り込んだ。






 戦場の手前に作られた待機地点は静かだけど、空気だけはずっと張りつめている。







 私はその真ん中で、一人だけ呼吸の仕方を忘れたみたいに落ち着かなくなっていた。








(やっぱり慣れないなぁ……人は多いし……全員大きい男の人……
孤児院ではそんな人いなかったからな……)












 少し離れたところでは、隊長が兵士たちと並んで立っている。






気持ちを落ち着かせるために辺りを見渡していると、





いつも無表情の隊長が珍しくほんの少しだけ
表情を緩めているのが目に入った。








「……いや、ーーーだな」

「隊長、それ本気っすか?」

「当たり前だろ。アンタらがやらかす未来が見えんよ、笑」






 兵士たちが「また始まった」と笑う。





 (戦場の手前なのに、なんであんな余裕があるんだろう……)







って思うくらい、普通の会話みたいに聞こえた。






その輪の中には科学者、いや、私達のボスもいた。








白いコートの裾を少し払って、落ち着いた調子で隊長に何かを伝えている。







「スタン、動線の確認をもう一度しておくよ。無駄なリスクは避けたい。」


「はいよゼノ先生。どうせ言われなくてもやるけどな。」






 不思議だった。






 二人のやり取りは短いのに、何年もこうしてきたみたいな自然さがある。







 私は、少しだけ距離を置いたところでその様子を眺めていた。







 話しかける勇気は……ないけど。









 
邪魔してしまいそうだったし、



あの輪のテンポについていける気も全然しなかった。







 手首の赤いミサンガをそっとつまむ。



 糸の感触はいつも通りなのに、今日はやけに心臓の音と重なる。







 すると急に兵士の一人が笑いながら叫んだ。





「隊長、あなたさんにもなんか言ってやったらどうすか!」


「は?」

「!?」
(な、何言ってんの……!?)








急に話しかけられ一瞬表情が固まったのが自分でもわかった。








「ほら、いくら強いとはいえまだ子供っすよ??」

「あなたさん、いくつでしたっけ?」

「……15ですね」




少し戸惑いながらも察されないように目を伏せて言った。






すると、余程意外だったのか、普段は余裕たっぷりに見せている隊長の目が、一瞬だけ驚きで揺れ気がした。




「……まだ子供じゃねーか、あんた」





スタンリー隊長がこちらをちらっとだけ見る。





 でも、それ以上は何も言わない。




 多分、声をかけることが優しさじゃないってわかってるからだ。




 下手に話しかけられたら、私はむしろもっと緊張してしまう。




 ゼノが静かに言う。







「 あれだけ優れてているのに、15歳とは…… 実にエレガントだ笑」






スタンリー隊長がちらりとゼノさんを見て、軽く肩をすくめる。




「……おい、あんたまで余計なこと言うんじゃねーよ笑」








 言い合うようで言い合ってない、不思議なバランスの会話。






 でも、その二人がそこにいるだけで、周りの空気が安定しているのがわかった。






 私は胸の奥のざわつきを押し込んで、深呼吸をする。






 (戦場の空気はこわい……)







 でも、あの輪の中の声は――なぜか、すごく強かった。






ゆっくり歩いていくスタンリー隊長とゼノさんの背中を見ながら、
どこか懐かしさを感じていた。
 











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【スタンリー】

由来

石の多い草原のこと。

もしくは、ペルシャ語で「地」「場所」を意味する。

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