第2話

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2024/02/16 02:07
夜行列車内は、男のむさ苦しさと、煙草の匂いで充満していた。
(なまえ)
あなた
けほっ、けほ……
ッ酷い臭いだな……
鼻をつまんで、目の前の空気を入れ替えるように手で扇ぐ。
水木
今更だろ
職場は毎日こんなもんだぞ
(なまえ)
あなた
ま、むさ苦しいのには
戦争時代に嫌でも嗅いだから慣れてる
私は近くの席の女の子に手拭いを渡す。
(なまえ)
あなた
これで抑えてな
少しはマシになる
お礼を言った女の子の頭を撫で、水木の隣に座る。
水木
随分優しいな
(なまえ)
あなた
親切すればするだけ
自分に返ってくるんだよ
水木
またそれか……
水木は煙草を咥える。
(なまえ)
あなた
まさか、この状況で吸うのか?
水木
悪いかよ
(なまえ)
あなた
……早死するぞ
水木
ご心配どーも
水木は慣れた手つきでマッチで火をつけた。

その瞬間、電車内の電気が消えた。
水木
は?
(なまえ)
あなた
…………………………
ゲゲ郎
お主ら、死相が出ておるぞ
私達の反対側に座る着流しの男。

前屈みで座っていて、表情は伺えない。

しかし、私はこの気配を知っている。
ゲゲ郎
この先、地獄が待っておる
わしには見えるのじゃ
見えぬものが見えるのじゃ
水木
何寝ぼけたこと言ってんだ、爺さん
水木は立ち上がった。

すると、男は顔を上げて私達の顔を見た。

白髪の隙間から、赤い目が私達を捉える。

ゲゲ郎
現に、そら……お主らの後ろ
大勢憑いておる
(なまえ)
あなた
後ろ……?
水木
……ッ!?
振り返ると、戦友達が何人も並んでいた。
(なまえ)
あなた
……………………
これは……水木に憑いている奴らか。

もし私に憑いていたら…………。

旦那様が気付く。
水木
あちっ
水木の指まで火が到達したのか、水木がマッチを落とす。
(なまえ)
あなた
うぉっ
思わず私は、火のついたマッチを素手で掴む。
(なまえ)
あなた
水木
馬鹿かお前は!!
手を開けば、マッチの火は消え、手の平が汚れていた。

水木は慌てて自分の鞄から水を取りだし、手拭いを濡らして私の手を冷やした。
(なまえ)
あなた
こんくらい大丈夫だぞ?
水木
そういう問題じゃねぇ!!
少しの傷が命取りになることくらい
お前はわかってるだろ!!
(なまえ)
あなた
……それは…まぁ…………悪い………………
手当している水木を視界に入れつつ、先程男がいた所に目をやる。

そこには誰も居なかった。

…………やはり気付かれなかったか……。

余程切羽詰まっておられるのだろう。

私の気配に気づかないなんて。

考え始めたところで、水木の顔色が悪いことに気付く。
(なまえ)
あなた
どうした?水木
顔色悪いぞ
水木
そりゃお前に怪我させたからな
お前こそ顔色悪いんじゃないのか?
帰るか?
挑発的な笑みで見てきた。
(なまえ)
あなた
まさか、ここまで来たんだぞ
再び席に座り直して、私は外に浮かぶ月を眺めた。

帰るわけない。

だって、長年探し続けた奥様の気配を、これから向かう村で感じたと教えてもらったのだから。

早く見つけ出して、旦那様にお教えしなければ。

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