夜行列車内は、男のむさ苦しさと、煙草の匂いで充満していた。
鼻をつまんで、目の前の空気を入れ替えるように手で扇ぐ。
私は近くの席の女の子に手拭いを渡す。
お礼を言った女の子の頭を撫で、水木の隣に座る。
水木は煙草を咥える。
水木は慣れた手つきでマッチで火をつけた。
その瞬間、電車内の電気が消えた。
私達の反対側に座る着流しの男。
前屈みで座っていて、表情は伺えない。
しかし、私はこの気配を知っている。
水木は立ち上がった。
すると、男は顔を上げて私達の顔を見た。
白髪の隙間から、赤い目が私達を捉える。
振り返ると、戦友達が何人も並んでいた。
これは……水木に憑いている奴らか。
もし私に憑いていたら…………。
旦那様が気付く。
水木の指まで火が到達したのか、水木がマッチを落とす。
思わず私は、火のついたマッチを素手で掴む。
手を開けば、マッチの火は消え、手の平が汚れていた。
水木は慌てて自分の鞄から水を取りだし、手拭いを濡らして私の手を冷やした。
手当している水木を視界に入れつつ、先程男がいた所に目をやる。
そこには誰も居なかった。
…………やはり気付かれなかったか……。
余程切羽詰まっておられるのだろう。
私の気配に気づかないなんて。
考え始めたところで、水木の顔色が悪いことに気付く。
挑発的な笑みで見てきた。
再び席に座り直して、私は外に浮かぶ月を眺めた。
帰るわけない。
だって、長年探し続けた奥様の気配を、これから向かう村で感じたと教えてもらったのだから。
早く見つけ出して、旦那様にお教えしなければ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。