彼女が病室から出ていき、少したつと母が口を開いた。
そう言うと俺は先程彼女が出ていった扉を見つめる。
それを見た母が嬉しそうな表情で言う。
俺は微笑んで頷いた。
頭の包帯は彼女を守った証のような気がしてそっと触れる。母はその仕草を見て、切なげな表情に変わる。
俺は首を横に振った。
両親は海外で働いているから帰ってくるのが遅くなるのは当たり前だと思ってる。むしろ3日で帰ってこれたのが凄いぐらいだ。それに2人が働いてくれているおかげで俺は自由にいろんなことをさせてもらってる。だからこそ謝ってもらう必要はないと思った。
俺がそう言うと母は少し俯きながら言う。
突然のことに俺の頭は追いつかなかった。
母はそう言って笑う。でも、俺は知ってる。母さんがどれだけデザイナーの仕事が好きで、生きがいであるか。久々に家に帰ってきてのんびり俺たちと過ごしたあと、自分の部屋で楽しそうに服のデザインを考えていたのを俺は見ていた。それにパリへ行くことが決まった時、母はとても嬉しそうだった。
2人とも呆然としていた。俺は言葉を付け足していく。
思わず俺は叫んでいた。母も父も驚いていた。
感情が高ぶり俺の目から涙が伝う。
そういった時俺は自分が何を言ったのか気づいた。俺は…寂しかったんだ。今まで。
姉ちゃんが居なくなってからは更に。一人で食べるご飯。だだっ広い家。俺は無意識に“寂しい”という気持ちを押し殺していたんだ。あの時からずっと。
母は切ない表情で涙を浮かべた。
その時に俺は言いすぎてしまったと気づく。
俺が何かを言おうとする前に父さんが口を開いた。
俺は首を横に振る。
2人の表情は笑顔に変わっていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。