♡あなたside(now)♡
彼の放った言葉の意味はなんだったのだろう…
遮ってしまった私に考える権利なんてないのに、淡い期待を抱いてしまう。
その声に横を歩く彼女の方を向くと、「どんな関係なのか」眼で訴えてくる。
そんな嘘ともホントともいえない曖昧な言葉で返すも、彼女は"あなたも関西出身だもんね!"とそれ以上聴いてくることはなかった。
そして次に呟いたその声は、今度は彼女にさえも届くことなく青空の下へ消えていった…
…
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♡あなたside(past)♡
彼が夢を叶えるために上京した約1年後。
私も東京の大学に進学するために上京した。
引越し作業も終わった頃、チャイムの音に玄関を開けると武者修行終わりの彼がいて…
まだ玄関なのに、思いっきり抱きつく。
久しぶりだったからか、するりと言えた本音。
あの日以来、段々言えなくなっていったんだっけ…
そう耳元で囁いて優しく抱きしめながら、
甘いキスを落とす彼。
…
ソファーで隣同士に座る。
さっきから大分時間が経っていた…
その時鳴る彼の携帯。
そう断りを入れて玄関の方へ歩いて行く。彼の「お疲れ様です」という声だけが微かに聴こえてきた。
そう前に公園で言ってくれた彼の言葉を思い出して呟く。誰にも聴かれないと思ってたそれは、
彼に聴かれていたらしい…
迷惑かけたくなくて…重い女と思われたくなくて…努めて明るくそう返しても、
隣に座りなおした彼の両手に頬を包まれ、彼の方に向かせられる。
さらに彼に見つめられて、溢れる感情を逃せなくなった私の目から涙が零れる。
すると彼はゆっくり私の頭を肩に寄せ、背中をポンポンさそってくれて、
そう低く落ち着く声で言うと、次の言葉をずっと待っていてくれる。
…
そんな彼を前に全部話した。
忙しいのに、迷惑をかけてること…
壱馬はずっと努力しているのに、私は何も変われていないこと…
少し話すごとに"うん"と相槌をうってくれていた彼は、全て話し終えた私の顔をあげるように促し…
優しい目を向けながら、
そう言って涙を拭いてくれた。
…
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♡あなたside(now)♡
どんなに考えないようにしても、
彼のことを考えてしまう…
それぐらい、
見える景色、全部…
聴こえてくる音、全て…
その声はあの時と同じで…でも彼の匂いはもうしない部屋で、寂しく響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。