第44話

インフル💚
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2026/02/07 11:52 更新
最初に体調を崩したのは、阿部亮平だった。
阿部亮平
阿部亮平
「……ちょっと寒いかも」
そう言いながらも、阿部はいつも通りに笑っていた。
だが時間が経つにつれて、顔色は悪くなり、言葉数も減っていく。
深澤辰哉は、その変化を見逃さなかった。
深澤辰哉
深澤辰哉
「阿部ちゃん、今日は無理すんな」
「俺が代わるから、横になっとけ」
阿部は一瞬迷ったあと、小さくうなずいた。
阿部亮平
阿部亮平
「……すみません」
その夜、阿部の熱は一気に上がった。
身体のだるさに加えて、強い吐き気が何度も波のように押し寄せる。
阿部亮平
阿部亮平
「……っ……」
洗面所に駆け込むたび、深澤は何も言わずにそばにいた。
背中をさすり、終わるまで静かに待つ。
それが一度や二度では終わらなかった。
阿部亮平
阿部亮平
「……ごめんなさい……」
力なくそう言う阿部に、深澤は即座に首を振る。
深澤辰哉
深澤辰哉
「謝るなって」
「今は出すもん出して、休む。それだけ」
翌朝、病院へ向かうことになった。
阿部亮平
阿部亮平
「……検査、だよね」
阿部の声は、すでに弱々しい。
阿部は元々、病院が得意ではない。
特に“検査”という言葉には、強い不安がある。
深澤辰哉
深澤辰哉
「俺、ついてる」
深澤はそう言って、阿部の隣を歩いた。
待合室でも、阿部は落ち着かなかった。
手は冷たく、膝の上で小刻みに震えている。
阿部亮平
阿部亮平
「……ふっか……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「ん?」
阿部亮平
阿部亮平
「……怖い……」
その言葉は、子どもみたいに正直だった。
深澤は、阿部の肩に手を置く。
深澤辰哉
深澤辰哉
「大丈夫」
「俺、離れない」
検査の説明が始まると、阿部の表情が一気に強張る。
阿部亮平
阿部亮平
「やだ……無理……」
「……こわい……」
ついには声を上げて泣き出してしまった。
阿部亮平
阿部亮平
「やだ……やだ……!」
深澤はすぐに近づき、阿部を抱き寄せる。
深澤辰哉
深澤辰哉
「阿部ちゃん、俺の声聞いて」
「終わったら、すぐ帰ろ」
「一緒に呼吸しよ」
阿部は深澤の服を強く掴み、泣きながら何度も頷いた。
検査は、時間は短かったが、
阿部にとってはとても長く感じられた。
結果は、インフルエンザ。
帰宅後も、阿部の体調は安定せず、
吐き気は何度もぶり返した。
阿部亮平
阿部亮平
「……また……ごめん……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「いいから」
「体が戦ってるだけ」
「俺はここにいる。それで終わり」
だが、数日後。
今度は深澤が、ふらついた
深澤辰哉
深澤辰哉
「……あれ……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「……あー……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「移ったな、これ」
阿部は、布団の中から顔を上げた。
阿部亮平
阿部亮平
「……ごめん……!」
深澤辰哉
深澤辰哉
「だから謝るなって」
深澤は、いつも通りの調子で言った。
深澤辰哉
深澤辰哉
「看病してたんだから、想定内」
深澤の症状は、熱とだるさが中心で、
吐き気はなかった。
それでも、阿部は罪悪感でいっぱいだった。
阿部亮平
阿部亮平
「……僕のせいで……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「違う」
「俺が、そばにいたかっただけ」
その夜、ふたりは同じ部屋で休んだ。
阿部はまだ不調が残り、
時折、苦しそうに顔をしかめる。
そのたびに、深澤は声をかけた。
深澤辰哉
深澤辰哉
「大丈夫」
「ここにいる」
阿部は涙目で、小さく言う。
阿部亮平
阿部亮平
「……ありがとうございます……」
「……ふっかがいて、よかった……」
深澤辰哉
深澤辰哉
「それ、今言う?」
インフルは、確かにつらかった。
でも――
ひとりじゃなかった。
うつるほど近くで支えてくれた人がいて、
泣いても、弱くなっても、受け止めてくれる人がいた。
阿部亮平は、熱にうなされながら、
その温度を、しっかりと覚えていた。

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