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第43話

40 どちらを本音にするのかは
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2026/03/08 03:00 更新




『またな』
電話越しの声。その声に反応することなく、私は電話を切った。
自主練用の金槌と釘、そしてナイフを持ち出す。


こうするべきだと分かっていたが、今の私が止めていた。

「野薔薇様、何をしているのですか?」
綺麗な着物に身を包んだ女が怪しんだ様子でこちらを見ていた。
「んー、そうね。…正しくする?」
血が穏やかに滴り、綺麗な着物が地で染まった。
「あ"…ぁ」
自分に起こった出来事を理解したようだ。
ある程度の知能はあったようで何より。
汚れた金槌になど、目もくれず私は当主の元へ向かった。
「野薔薇様っ!!」
生きたいと懇願するこいつらにも、いつしか情は湧かなくなっていた。
その散らばった肉の姿で未だ何を望むのか。私には到底理解できなかった。
でも、私が向かうべき道は照らされているように歩きやすい。
釘崎家が望んだ私になってあげる。



「…ついにか」
嬉しそうに笑う糸目が気に食わない。
「あの子達まで殺したのか。可哀想に。
そこまでとは予想もつかなかったね」
「なにも可哀想とか思ってないのに、よく口が開く」
血で汚れた畳と、壊れて使い物にならない襖の上を歩く。情がないのは私だけじゃなくてあいつもだ。
「釘崎家全員殺す気かい?」
「何か問題ある?」
「いいや?
 立って。僕の"操り人形"達」
死んだはずの人間が、糸に吊り上げられるように起き上がる。

山奥の屋敷で争いの火蓋は切り落とされる。
まだ夜は始まったばかりだった。









「や…やめてくれ!!」
命乞いの声はふとした時にしか聞こえない。
それぐらい何の変哲もない日常になった。
なって、しまった。

個性の有無など瀕死になれば同じもの。
いつのまにか手に馴染むようになったピストルを適当にポケットに入れた後、任務完了の連絡をメールに送信する。
廃墟の中は夜であるのにも関わらず蒸し暑く、光は月の反射だけ。
(「今日はやけに星が見える」)
誰かと、一緒に見た気がする。
優しい笑みでこちらに微笑みかけて…。
黒髪の自分よりも年上で、姉のよウナ⁇


「…いつもは連絡早いのに今日に限って」

既読すらつかない当主は今何をやっているのだろうか。

その刹那、殺気を感じる。

「誰だ」
ここまで足音も聞こえなければ視線も感じなかった。影で姿も見えない。
ただ分かることは、そこにいるだけ。

「…なあ」

聞き覚えのある声が脳を支配する。
わざとらしく足音を立てるように、こちらに向かって歩いてくる。
月の光が、影を遮るとフードを深く被った男の姿が見える。

「流石に疲れたよ、俺」

そう声を漏らした男はこちらに手を向ける。
分かることは何も無い。
ただ、影の生ぬるい温度が懐かしかった。








「この林間合宿で更なる高みへプルスウルトラを目指してもらう」

ついに来てしまった当日。B組の1人がウザ絡みをしてくるが、ついさっき解決したようだ。
今日は少し疲れた。移動中は睡眠を取ろう。
バスに乗り込んだあと、私はそのまま眠りについた。
揺れるバスと賑やかな声が、私を悪夢へ誘った。






▪︎▪︎、みんなに伝えて

「『悪くなかった』!!」






 
痛い



「……」
どうやらバスは止まったようだった。





足を止めずに走る。地面からは振動を感じ、爆発音や崩れる音が絶え間無く聞こえる。
目の前から襲いかかってくる魔獣を無視して進む。

これは私たちA組に課せられた課題だった。
目的地の林間合宿の場所まで、歩いていくこと。
しかもそれだけじゃ無い。

この魔獣の森を超えて。




気がついた時には後方とは距離が出来ていた。
今回の課題、わざわざ魔獣を倒す必要性がない気がした。真正面から戦っても良いが、
今の持ち物は違法に持っているナイフだけ。
釘も金槌も全てバスの中。私にできることは何もない。
 先にいくね。



「4時間ピッタリ。なかなか早いわね」
「他のやつらはどこだ」
「全員置いてきました」
到着した後その場にいる人に問いを大量にぶつけられる。
「私の個性知ってますよね?戦えるわけないじゃない」
腕を組みながら高圧的な態度を取ると、相澤の目が変わる。異変を感じとられた?

別に構わない。何も変われないなら壊すだけ。

場違いな少年がこちらを見てきていたが、
睨み返すと視線を逸らしてきた。



日が暮れ始めると、やっとクラスメイトがやってきた。私と違って戦闘を繰り返していたのだろう、制服が泥に汚れたりボロボロになっていたりした。
爆豪が睨みながらキレてきたが無視をした。
「なんか言えや釘女」
平常心は大切よね。



食事を済ませてから入浴の時間になった。
「一緒に行こう!」
意気揚々と話しかけられたが、体に染み渡るアザを見せるわけには行かないし、傷跡も綺麗に完治しているわけではない。
個別に用意はしてくれているはず。言い訳も準備してあるし、交渉してみるべきか。
「ごめんなさい、今日はあの日だから…」
「それじゃしょうがないよね!ごめんね」
申し訳なさそに笑う顔が何故か怖かった。


交渉は上手く通った。そして何故か失神した少年…洸汰の目が覚めるまで近くで待機となった。

ここぞとばかりに良いように使いやがって…。
恨めしかった教師の声も、その理由が分からなくなってどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
私が、私じゃなくなっていく感覚がする。


「…ここは」
「目が覚めたのね。アンタ失神してたみたいよ」
私の声にびっくりしたのか飛び起きた少年は、
こちらを見た後目を逸らして、ぶつぶつと何かを言っていた。
私には関係ないこと。

「ヒーローなんて」

しっかり聞き取れた言葉はそれだけ。
「ヒーロー嫌いなの?」
無言は肯定と受け取る。なら、
「私と同じね」
少年はびっくりした様子で見を見開いたあと、機嫌が悪そうな目つきになった。
「じゃあなんでヒーロー科に居んだよ」
「家系的に強制で。公務員だからお金も稼げるし、ちょうど良かったのよ。
だから想像してるヒーロー像とは良くも悪くも全く違う」

少年は俯いたままなにも言葉を発さなかった。





AM5:00

早朝に起こされ、始まった強化合宿。
私が行うのは基本的な肉体トレーニングと釘の正確な打ち込み練習。

「死ぬ程キツイがくれぐれも死なないように」

息を呑む音が聞こえた。








夜、どこかの森の奥での出来事。

「ていうかこれ嫌、可愛くないです」
「裏のデザイナー・開発者が設計したんでしょ?見た目はともかく、理には適ってるハズだよ」
「そんなこと聞いてないです。可愛くないって話です」

人間ってめんどくさ。
両手を動かしながらため息をつく。
さっさと釘崎野薔薇を殺して、虎杖悠仁を探す。それが俺の夢。

心底どうでも良いヴィラン連合は形だけ。
そこに仲間意識も何もない。ただ無様な人間の集まり。

「どうでもいいから早くやらせろ!ワクワクが止まんねえよ」
興奮気味に話す奴に火傷を負っている男に言った。
「黙ってろイカレ野郎。まだだ。決行は10人全員揃ってからだ。威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら経験豊富な少数精鋭。まずは思い知らせろ」


「てめェらの平穏は俺たちの掌の上だということを」

知る余地もない。
それをいう彼らも、掌の上であることを。


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