「世界文明循環説?」
また妙なことを言い出したな、こいつ。そう思いながらも、一応男は目の前の人間に聞き返した。
「そうそう! 世界の文明と、その定義についての仮説だよ。おれがゼロから生み出したわけじゃないから、いるまは名前は違えど、聞いたことあるかもしれないね」
いるまが反応してくれたことが嬉しいのだろう、らんは目を輝かせて楽しそうな笑みを浮かべる。
いるまの目の前で笑う彼は、とある国によって造られた魔法大教会の会長。歴代最年少である二十八歳で魔導式賢者___いわゆる大賢者、と呼ばれている___の地位にまで上り詰めた、魔法の才に溢れた研究者の一人。彼の名はアラン・オルキデア。いわゆる、天才と呼ばれる人間だ。
対して彼の向かいに座る男は、それをあまり意識しているようには見えない。理由は単純、人間一人が手にしている地位に興味がないからである。
彼の名はイルマ。二千年ほど前、この地を支配していた魔王を討ち取った勇者パーティーの一人であり、人類の魔法学の発展に大きく貢献した魔法使いである。一応人間ではあるのだが、魔王を討ち取った際、魔力切れを起こしている状態で魔王の呪いを受けた為、歳を取らなくなった。
当の本人はあまり気にしておらず、『やっべー呪いのせいで不老不死になっちった、まあ適当に生きてよっと』程度にしか思っていない。
「……で? そのなんちゃらぐるぐる説ってなんだよ」
「世界文明循環説!! ……簡単に言うと、生命体は文明の誕生と滅亡を繰り返して、その度に何度も同じシナリオを繰り返してるっていう説だよ」
「それを俺に話してどうすんだ。確かに世界の存在定義や在り方について知ってはいるが、一人間に教えられねぇぞ。世界の全貌ってのは、精霊の森の大樹に載ってるレベルの超機密情報だからな」
「だから、そういう話じゃないんだって。あくまでこの時代の研究者の仮説として聞いてってこと。面白くない? 今まで似たような文明は何度も生まれてきていて、その度に魔法も作り替えられてる。魔力やその原力の魔素が太古から存在するものだと仮定して、それに誕生した文明ごとに名前も可能性も全部違っているのにみんながみんな気づいて同じことを証明しようとしてる!」
目をキラキラと輝かせながら早口で語るらんに、いるまはほんの少しだけ目線を向ける。
窓からの光を受けて金色を目立たせるその瞳の動きを、らんは見逃さなかった。
「あ、いるま今ちょっと興味出たでしょ」
そのままらんはにやっと唇の端を上げて笑う。照れ臭かったのか、いるまはニコニコしたままのらんからそっと目線を逸らした。
「……別に」
「うっそだぁ、いるまおれのこと好きなんだか、ら”ッッ!!」
調子に乗っているまの頬をつんとつついたらんの頭に、いるまの拳骨がガツンと音を立ててぶつかった。痛いともがきながら、らんは涙目でいるまを見上げる。
「いきなりなにすんの!!」
「すまん、手が勝手に」
「めちゃめちゃわざとだったよね!? この天才的な頭脳が壊れちゃったらどうすんのさ!」
ぼやきながら鏡で乱れた髪を整えるらんをみて、いるまが少しだけフッと笑った。
世界文明循環説。約四百年ぶりに聞いた説だ。同じことを言ってくる奴は何人かいたものの、みんな早くに死んでいき、結局誰一人、それを証明することはできなかった。
「なぁ」
「ん? なに?」
この機会を逃せば、もうしばらく聞くことはないかもしれない。
そんな思いを抱えて、いるまはらんに問いかけた。
「どういう風に考えてんの。この世界のこと」
いるまの問いに、らんは目をぱちくりさせて、やがてまた嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……知りたいなら、教えてあげる。そうね、たとえばおれとお前がさ_________」
______世界循環説。
それは、ある二人の魔法使いの“仮説”の話である。
[はじめに]
こちら、桃さんと紫さんの語り合い、という体で始まる「短編集」となっております。故に、どんな物語でも短編であれば全部こちらに収録できるという飽き性の作者のために作ったものです。もちろん超絶絶絶不定期更新。
短編集ですので、もちろんリクエストも歓迎しております。コメント欄にて書いていただければ執筆いたします。(受験生ですので、リクエスト反映の時期に関しては時間がかかる、あるいは実現できない場合がございます。ご了承ください)
とある魔法使いたちの“仮説”の世界を、どうぞお楽しみください。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。