学校から出た課題や、ただただ家でぼーっとする日々を送り
夏休みが終わるまではあっという間だった。
担任「みんな久しぶりだな!課題ちゃんとしてきたかぁ〜?」
それを聞いて、慌て始める男子。
そんな様子を面白そうに笑っている他のクラスメイト。
夏休み前までは当たり前に見ていたこの景色も、なんだか少し懐かしく感じる。
「あのさぁ〜」
HRあと、目の前の席の男の子がそう言いながら振り返る。
でも私は返事をしなかった。
だって、私なんかに話しかけるわけ、ないもん。
「ん〜?何」
「数学のさ……」
ほら……
彼は斜め後ろの席のクラスメイトと楽しそうに話し始めた。
休憩時間は、少し気まずい。
ほかの人たちは仲のいい友達と楽しそうに話している中、私だけひとりぼっちで
体を丸めて席に座ってるのだから。
小さくため息ついた、その時。
そう言うと、彼はにかっと笑った。
───────── 誰かに、
話しかけられることが、こんなにも嬉しいなんて。
話したいことがいっぱいあって、
でもまずは、久しぶりって言った方がいいのかな……?
頭がごちゃごちゃになって、上手く言葉にできない。
そこから話が続かなくて、どちらとも黙ったまま。
クラスメイト「いーわーいーずーみぃー。ちょっとコレ見てみろよ」
クラスの真ん中の方で集まっていた男子の1人が、岩泉に手招きする。
そう言うと、岩泉は呼ばれた方に向かって行ってしまった。
……もう!
何やってるの!私は!
せっかく話しかけてくれたのに。
嬉しくて、話したいことがいーっぱいあったのに
結局何も話せなくて……
小さく彼の名前を呼ぶ。
夏休みのことがあってから、私自身も少しは変わったと思ったんだけどな。
学校での私は、暗くて地味な女子。
それは何一つ変わってない。
きずくと岩泉が、何かを思い出したように勢いよく振り向いていた。
ばちっと目があったかと思うと、
急に名前を呼ばれて、肩がとびあがる。
彼は何も言わず、黙ったまま見つめてくる。
な、なに?何を言われるの!?
すると、岩泉がふと笑ったように見えた。
突然のお誘いに、しばらくフリーズ……
その笑顔に思わずドキッとする。
沈みこんでいた気持ちが、いっきに上がってきた感じ。
───────── ああ、そうだった。
夏祭りの時思ったんだ。
私は地味で、友達も少ないけど、
自分の事を好きだって言ってくれる人がいるなら、それだけで幸せだっ〜て。
前みたいに小さくなっていた背筋を、少し伸ばしてみる。
顔の前を塞いでいる前髪の隙間から、前をしっかりと見る。
……大丈夫。
そう、自分に言い聞かせる。
怖い。
他人と目を合わせるのが
でも、ひとりぼっちだった私に話しかけてくれる人がいた。
さっきまで、ずーんと沈んでいた気持ちが
嘘みたいに、今は明るい。
岩泉の方ちらっと見る。
私は小さな声で、" ありがとう " と、そう伝えておいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。