第25話

#25
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2023/12/12 10:41 更新
「……それで、君はその哀哭あいこくとやらの里のとこは覚えているのかね?先からずっと獣道を歩いているばかりで蚊が辛い……」

新聞を受け取ってから約1時間ほど、咲子とゐわりは殺の後に着いて獣道を歩いている。殺は心に焦りがあるのか、早足で少し先にいる。

「僕の故郷だ。覚えている。」

殺は一切振り返らなかった。

「…別にお前らは着いてこなくても……哀哭は、厄神の里ほど落ち着いていない。食料の調達もままならないし、埋まりきらなかった女、子供の死体も転がってる。咲子が耐えられても、御嬢さんが無理だろ。」

『御嬢さん』と言うのはゐわりのことだ。殺はゐわりと目を合わせ、心配そうに眉を寄せた。

「で、ですが、これを知っておいて場にらぬというのは決まりが悪いですし……」

「…あけの里には神なんていそうにいない。僕ら可哀想な南の人間は貧乏神すら見たことがない。だから神の代わりにおさがいる。」

「……神の死骸なんて見たくないだろう?」

ゐわりは声を発していた口を完全に閉ざしてしまった。かつて神に仕えていた身で__本人こそが辛いだろうに__と考えた奥に、殺の言うこと全てに納得がいってしまった。
哀哭に行くかと問い、恐らくゐわりは「控えておく」と言うだろう。それの察しのついた咲子は、丑三つ時となるかならないかのこの時に1人南周辺に置いておくのは危険が過ぎる__神虫しんちゅう様の御告げもあることだ__と考え、一度前方の殺を呼び止めた。

「ゐわり嬢と私共に君の御言葉に甘えてみたい。悪い気にさせてしまうか?」

「いいや、これに関しては南の問題だ。僕だけの訪問で十分だろう。お前たちは西で休み、明後日(現在を深夜として日付の変更を考えると明日)でも北で遊ぶといい。どうやら既に北は通ったようだが、日単位であそこはますます美しくなる。毎日通っても飽きないぞ。」

ひきつった殺の微笑みが、それこそますます哀しみが増すのを明確に表していた。咲子は手早く立ち去ろうとし、ゐわりもそれに従ったが、ゐわりの申し訳なさと命の儚さの哀が混ざりあった、複雑な表情が貼り付いている。
咲子はまた後日花札で、と軽く手を振り、ゐわりの肩を抱きながら、ここまでの獣道を戻っていった。

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