前の話
一覧へ
次の話

第1話

第一章
100
2020/04/05 09:57 更新
ある昼下がり、自宅から地元の中学校に所属している吹奏楽部の音色が私の胸に響く。

 プップップー プップップー

 受験勉強してる時であったが、フッと窓を開けてみた。

住宅街から聞こえてくる演奏曲が昔のことを思い出す。

 こんな時期であった。

私が具合悪い時にカーテンを開けたら那月(なつき)が笑顔で手を振っていた。

この音色とともに訪ねたのがまさか、那月だとは知らなかった。

真奈(まな)、これ読んでほしい。誰?

 私を呼んでいるのは……。

照れくさそうに私を見てから、茶髪の男の子が手紙を差し出してきた。

 目元にはほくろがあって、凛とした声が印象的であった。ぼんやりとした茶髪の男の子の顔が思い出せない。

「真奈! 真奈!」

「う、うん?」

「起きて。次、移動!」

私は元気あふれる声の主に起こされた。
この声の主は須藤杏奈(すどうあんな)。

私の唯一の親友であり、何かあるとすぐ杏奈に相談する。


「…え? 私、寝てた! やばい、さっきの授業聞かないと次回のテストに響くのに」

 私は顔に跡がついていないか確認するために手で顔を触った。

それを察したのか杏奈は、ついてないから大丈夫と言ってから私の顔を見て心配そうな表情を浮かべた。

「…寝てたよ。真奈が寝るなんて珍しいよね。勉強も部活も一生懸命にこなしてるのに」

 一生懸命か。

校則通りの制服を着こなしたスカートを握りしめ、なぜかこんな真面目の自分をみっともなくなった。

「…あんたなんかあった?」

 下から私の顔を覗いてきた杏奈は、私に聞いてきた。私は、両手で杏奈の髪をぐしゃぐしゃにした。

「ちょ、ちょっと。今日、ちゃんと髪セットしたのに! もう真奈!」

「あとで、話す」

 私はそう言って、机の中から教科書を取り出して杏奈の所に行った。

私は頭の中でさっき見た夢のことを考えていた。

夢の中で出てきた茶髪の男の子は一体誰なのだろうか。
でも、この夢は現実で起きたような気がする。


私は杏奈の隣で、呆然と立ち尽くしていた。

「真奈、どうした。行くよ」

「うん」

 私達は教室から出て、ゆっくりと音楽室に向かおうとした瞬間、聞き慣れた声がした。

「真奈―」

 それは、高杉那月(たかすぎなつき)であった。那月は、高校三年生で私たちより一つ上であるが、私とは幼馴染である。

「那月。なんでいんの」

「失礼な。俺がいる自体、ダメみたいな言い方。俺、傷ついたぁ」

 那月は私の所に来て、ちゃらけた様子で私に言った。


「あ、そういえば。ほれ」

 那月は右手に何かを持っていた。

「あ、私が好きなサイダー」

 私は那月の傍まで行き、那月の右手に持っていたサイダーを手にしようとした瞬間。

「んっ」

 キスできるくらいの近さで那月は私の顔に近づいてきた。那月が右手で持っているサイダーは、頭上にあった。

 ち、近い。しかも、ちゃっかり私の腰に那月の左手があるし。もう、なんなのもう。

「あ、ありがとう」

私は頬を赤らませながら、那月の頭上にあったサイダーを受け取った。

その時、那月の右手に触れた。私は、何か分からないけど。私の頭の中で、一瞬茶髪の男の子が見えた。

「……」

 那月からもらったサイダーを両手で握りしめて、私は那月の前で固まってしまった。

「…真奈? どうした」

 那月は、私の顔を見て心配そうに下から私を見つめてきた。

私は那月の言葉でようやく現実へと引き戻された。

 那月まで心配かけてんのよ、どうすんの私。

「あ、うん。大丈夫。なんか昔のこと思い出した」

 私は苦笑いを浮かべて、那月に心配を掛けないように溌剌な声で言った。

「……そっか。ならいいんだ。じゃあ、俺戻るわ」

私をじっと見つめて、那月は私に言った。
 その言葉に私は返事できなかった。

那月が前を向いた瞬間、なぜか悲しさが襲ってきたのだ。

茶髪の男の子じゃないのに、那月があの男の子に見えたのだ。

でも、それは那月ではない。

那月はずっと黒髪だから。

那月が離れた瞬間、お礼を言っていないことに気づき、大声で那月に叫んだ。


「那月! ありがとうね。わざわざ」

 周りの同級生が見ている中、私はニコっと那月に手を振った。

「はいはい」

 左手をブラブラと上にあげて、那月は去っていた。

「真奈。終わった? 行くよー」

「うん」

 早足で音楽室に杏奈と話しながら、向かった。さっきの夢を見たのは、現実だったんだ。

だけど、私はまだ気づかなかったんだ。 
 茶髪の男の子がすぐ側にいるなんて。 


 俺はガラッと教室のドアを豪快に開けて、入った。すると、一斉にクラスメイトの視線が俺の方に向けられた。

もう、授業が始まっていたのだ。

「こらー、那月。十分遅刻だぞ。何してたんだ!」

 数学の山地先生(やまじせんせい)が頭をかきながら、怒鳴り声を上げた。

「……すいません。ちょっと具合悪くて」

「ほんとか?」

 俺の嘘に気づいたのか山地先生は再び俺に聞いてきた。

「はい」

 だが俺は平然を装い真面目な表情で答えた。


「…はぁ、分かった。座れ」

俺の嘘を信じた山地先生は、ため息をつきながら俺に言葉を投げかけた。

 俺は静かに席に着いた。

 その時、左斜めから物凄い視線を感じた。

 左斜めを見ると、授業というのにニンマリと後ろの席で携帯を弄っているあいつが笑顔で俺を見てくる。

 あいつ、絶対分かってる。

 キーンコーンカーンコーン

「…今日はここまで。じゃあ、来週までの宿題ここまでだから。ちゃんとやってきてな」

 そう言って、山地先生は教室へと去っていた。

ふぅ、やっと終わった。高三になってから数学難しくなったんだよな。ちゃんと勉強しねぇーとな。

「おーい、那月。なにさっき無視してんの」

「無視するわ。しかも、授業中だぞ、俊」

 こいつは、久保俊(くぼしゅん)。

高校三年間同じクラスで、よくつるむようになった。

だが、いつもは明るく人と接しているのにたまに物事を冷静に判断している時がある。

時々、こいつが良くわからない時があるのだ。

「おーい、聞こえてる。那月」

「……ああ、聞こえてる」

「んで、どうだったの? 真奈ちゃんのとこ行ってきたんでしょ」

 俺は俊と話している時にコーラを飲んでいたのでゴホゴホと咳払いした。

「…お前いきなり、真奈の名前出すなよ。ってかなんで、分かった?」

「那月、お前分かりやすいんだよ」

「はあ? 俺、分かりやすくないだろ」

 俺は右手で口を拭き、那月に言った。

「いやーそんなことないよ。口元ずっと緩んでるし。しかも、ずっとボーとしてるし」

 俊はそう言って調子よく俺のことを見て笑っていた。


「…そうか。俺そんな顔してたんだ」

 俺はコーラを机に置いてから顔を両手で覆った。

「…まぁ、そうだな。でも、僕思うんだけど、もう告白すればよくない?」

 俊は、正論の言葉を俺に投げかけた。

「……普通はそうだな。好きな人に直接告白すれば振られるか、カップルになれるか分かる。だけど、俺は違う。真奈だけには」

「…そう。お前が言うなら何も言うことはないよ。でも、言葉で伝わらきゃ分からないこともあるんだからな」

 俊は目を細めて悲しい表情を浮かべてから俺に言ってどこかに去っていた。


「……」

 俺はいつもどこか不思議な空気を漂わせる俊をどこか一歩引いて見ていた。

 でも、今俊の人間らしい一面が見れた気がした。

「あいつも、人間なんだな」

 俺は独り言を呟き携帯を取り出して、イヤホンを両耳に装着した。


「やっと、昼休みだ。ごはーん!」

 杏奈は両手を上にあげて、今日一の笑顔で私に言った。

「杏奈。お腹空きすぎて変な顔になってたからね、授業中」

「え? 変な顔ってどんな顔よ」

 他愛もない会話をしながら、食べる準備をした。

「…さあ? 」

私は首を傾げて、杏奈を見た。

「それより、真奈。私に言うことあるんじゃないの」

私の話を無視して、杏奈は、違う話題を私に振った。

そして、小さいお弁当を広げ始めた。

「……」

私は学校から徒歩五分にあるコンビニエンストアで買ったシャケ弁当を開けた。

私は杏奈の顔を見て、手を止めてしまった。
「なに、どうしたの」

杏奈は私の動作が止まったことに違和感を感じて、私に聞いてきた。

 私は下に俯きながら、ポツリと声を発した。

「…夢の中で茶髪の男の子が私に手紙を渡してきたの。でも、それは現実でもあったの」

「はあ? どういうこと」

 杏奈ははあ? と口を開けたまま私に言った。


「…小学校の頃、私ある男の子に手紙をもらったの。でも、その時私風邪引いて、ぼんやりしてて誰だか覚えてなくて」

「っはあ? ってか、真奈。なんで今さらそんなこと思い出したの?」

「…分からない。でも、急に夢に出てきて思い出した」

私は杏奈の言葉で、目が覚めた。
そうだ、なんで?
今そんなことを思い出したんだ。

不思議でならない。

「…ふーん。そっか。それだけ思い出深いだね。ってか、そいつもそいつだね。真奈が具合悪い時に手紙渡すなんて」

 杏奈は、一番大好きなから揚げを少し残して、箸を置いてから私に言った。

「…私の家知っている人って、地元の人しか知らないし。だから、誰だか分からなくて」

「まぁ、地元だと真奈の家知ってる人多いかもね。でも、風邪ひいてるって分かるのは限られてくるんじゃない?」

そう言って杏奈は食べかけのから揚げを大きい口を開けて食べた。


「…そうかもしれない。もう一回手紙見返してみる」

 私が見た茶髪の男の子は夢だったのかもしれない。

小学校の時にもらった手紙を読み返してみよう。

家の引き出しにある手紙を思い出しながら、杏奈と話した。

「…そうしたら、いいんじゃない」
 杏奈は私に笑顔で笑いかけて言った。

プリ小説オーディオドラマ