「ことばが、でない」
なにか、言おうとした。
ちゃんと、あいさつ、しようって。
そう、こころの中では、決めてた。
のどが、ぎゅって、しまった。
まただ。
ぼくは、くちをつよく閉じた。
みんなが、ぼくを見てる気がして、
むねが、どんどん、くるしくなる。
「だいじょうぶだよ」
そう言われるたび、
“だいじょうぶじゃない”って言いたくなる。
でも、その言葉が、いちばん出てこない。
おとなの人が、なまえを聞いた。
……だめ。
顔が、あつくなった。
また、しゃべれない。
また、できない。
目の奥が、つんとした。
どうして、ぼくのからだは、ぼくの言うことを
聞いてくれないんですか。
こころでは、
ちゃんと、しゃべってるのに。
そのとき。
ちょっと、やわらかい声がした。
“待つ”。
その言葉に、
胸が、すこしだけ、ほどけた。
ぼくは、ひとつ、息をすった。
言えた。
たった、それだけなのに。
そう言って、
そのおにいさんは、すごくうれしそうに笑った。
ぼくは、びっくりした。
だって。
“できなかった”ぼくじゃなくて、
“できた”ぼくを、見てくれたから。
そのとき、
近くで、だれかが言った。
どこからかあらわれた赤いぼうしの子だった。
となりの、マスクの子も、うなずいてた。
……すごい?
こんなの、
いつも、できなくて、怒られるのに。
胸の奥が、じんわり、あったかくなった。
また、つまった。
でも。
そう言ってもらえた。
“全部言えなくてもいい”。
そのことが、
こんなに、らくなんだって。
ぼくは、そっと、思った。
ここなら。
ぼくの言葉は、
途中で止まっても、
なくならないのかもしれない。







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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!