夕方。
小さな勉強部屋。
ころちゃんはゆっくりノートに字を書いてる。
るぅとくんは静かに問題を解いている。
莉犬は、えんぴつをくるくる回してる。
静かな時間。
悪くない。
るぅとくんが、やわらかく言う。
ノートをそっと指さす。
責めてない。
怒ってない。
でも。
その瞬間。
胸の奥が、ぎゅっとなる。
ちがう。
その言葉。
ちがう、は、
家ではいつも、次に怒鳴り声が来る合図だった。
「ちがうだろ!!」
机を叩く音。
近づく足音。
逃げ場のない部屋。
莉犬の手が止まる。
呼吸が浅くなる。
ころちゃんが気づく。
るぅとくんも、はっとする。
必死に言い直そうとする声。
でも、莉犬の耳には、もう別の声が重なってる。
ちがう。
ちがう。
ちがう。
おまえのせいだ。
視界が少しゆらぐ。
声が、強くなる。
ころちゃんがびくっとする。
るぅとくんの目が、少しだけ揺れる。
その顔。
しまった、って思う。
でも止まらない。
強くなきゃ。
怒られる前に、言い返さなきゃ。
ころちゃんの声は、小さい。
ゆっくり。
こわれものみたいに。
るぅとくんも、そっと言う。
その言葉は、攻撃じゃない。
ただの、やさしさ。
でも、莉犬の体はまだ戦闘態勢のまま。
拳が固い。
ばくばく鳴る心臓。
るぅとくんが、机に手をついて、少し前に出る。
逃げない。
責めない。
ただ、まっすぐ。
名前を呼ぶ。
それだけ。
怒鳴らない。
低くもない。
ただの、呼び声。
その音で、少しだけ現実に戻る。
ここはあの家じゃない。
机はひっくり返らない。
誰も殴らない。
ころちゃんが、そっと言う。
その問いは、やさしすぎて。
逃げ場がない。
喉がつまる。
言いたくない。
でも。
しゆちゃの言葉が、よぎる。
怖いって言えることかもしれない。
小さく。
本当に小さく。
でも、ちゃんと。
るぅとくんの肩の力が抜ける。
それだけ。
否定も、分析もない。
ころちゃんが、ゆっくりうなずく。
静かな告白。
対等な位置。
莉犬の拳が、少しゆるむ。
るぅとくんが首を横に振る
ふたりとも、まっすぐ見る。
逃げない。
でも莉犬は、ちゃんと子どもだ。
るぅとくんが、小さく笑う。
その言葉は、やわらかい毛布みたいに落ちてくる。
莉犬の目の奥が、じんわり熱い。
でも今日は。
怒鳴られない。
叩かれない。
追い出されない。
ぽつり。
三人の間に、少しあった緊張が、ほどける。
るぅとくんがノートを指さす。
莉犬は、鼻をすすって。
少しだけ笑う。
空気が、やわらぐ。
過去はまだ消えない。
音も、言葉も、ふいに刺さる。
でも。
今は、隣にふたりいる。
それだけで。
戦わなくても、いい時間がある。
莉犬は思う。
ひとりで耐えるだけじゃなくて。
隣にいてくれる人を、信じてみるのも、いいのかもしれない。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。