第6話

5.
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2023/11/10 15:25
岸side



岸「今からバイトだからさ、あんまり時間ないんだけど」


予防線を張った
これで時間を理由にできる


平野「うん、急にごめん

  さっきの… 岸くん怒らせて
  俺 言葉足りなかったな、て思ったから‥」

そこまで言って、俺の顔をのぞきこんできた


急な くっそイケメンのアップは心臓によくない
なんか分かんないけど、めっちゃ照れる


岸「なに…?」


平野「クマできてる
  今からバイトって、あんま寝てないんじゃないの?」


岸「そうだけど…、もう行かないとだから」


平野「……わかった
  じゃあ、せめて送らせて」


単車で来てるから、てそう言われて
後ろに乗ったのが間違いだった



平野「しっかりつかまってて」


バイクの後ろに跨がると
ぐっと手を掴んで引き寄せられて
平野くんの腰に両腕をまわすように誘導される


岸「俺、乗るの初めてなんだけど」

神宮寺には乗せてもらったことないし


平野「最初コワイかもしれないけど、なるべくスピード出さないで行くから」


言ってから、俺の手がちゃんとつかまってるのを確認すると
身体の中心に響くような排気音を鳴らして発進させた








岸「こんなの、誘拐だろ!!」


平野「ちょっ、危ないから!じっとしてて!
  あとでいくらでも殴っていいから」


幾らか走ったとこで、途中で気付いた

バイト先とは全然違う方向に進んでる
寧ろ逆方向だ

もう時間は完全に間に合わないとこまで行ってしまってる


岸「なんで!?どこに向かってんの!?」


平野「行き先なんて 決めてない!」


ヘルメットをかぶってるから聞こえにくいのに
プラス、風を切る音と走行音で 怒鳴り合いみたいになる


岸「もう、バイト無理じゃん!」


平野「休めばいいよ」


て、たぶん聞こえた

そのひと言で、急に身体の力が抜けて

なんだか、ほっとしてる


こうやって連れ出されてなかったら
ずっと しんどいままだったかも


くっついてる背中の体温が、さっきから心地よくて

最初乗ってるだけでコワかったのに

もう今は、流れる景色とか
スピードと風をダイレクトに感じるのが気持ちよくて
段々楽しくなってた






平野side


平野「いつもの道を全部反対に曲がってたら、こんなとこに着いちゃった」


結構走って、途中からはなんとなく海に向かってた

バイクから降りて
砂浜に降りる階段に、ちょっと離れて座ってる岸くんを見る


後ろに乗ってるときは怒ってたけど
あきれてんのか、今は落ち着いて海をながめていて

その横顔も
せつなくなるくらい 好きだ



平野「岸くん、殴っていいよ」


強引だったかもしれないけど
すごく疲れてそうだったし、あのまま行かせたくなかった

だって絶対、無理してた


岸「そうだった
  無断欠勤とか、したことないんだけど」


平野「ごめん、 100パー 俺がわるいよ」


岸「もういいよ
  なんだかんだ、楽しかったし」


ちょっと吹っ切れたように笑った

あんまり見たことない表情


今日は、怒らせたり
初めて後ろに乗せて すげードキドキしたり


背中から伝わる岸くんの体温とか、感触がまだ残っていて


今まで、誰かを後ろに乗せて
あんな高揚したことない



平野「岸くん……、
  俺のことどう思ってる?」


言おうと思ってたわけじゃない
自然と口から言葉が出た


たぶん
海からくる風のにおいとか、日が沈みかけてちょっと暗くなってきてることとか
雰囲気がそうさせたんだと思う



岸「へ?」


平野「俺、岸くんが好き」


岸「うん…、ありがと」


絶対わかってない


平野「そうじゃなくて」


見つめ返してくる岸くんから 目が離せない

もう、岸くん以外のことなんか どうでもいい



平野「もっといっしょにいたいから

   俺と付き合って」




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