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第1話

第一話 半分くらい浮いている奴が案外ちょうどいい塩梅
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2026/01/19 15:20 更新
万事屋の古びたソファで、銀時が鼻をほじりながら『ジャンプ』を読み、神楽が酢昆布を齧っている。いつも通りの、昼下がりの気だるい空気が漂っていた。
​その時、一階の「スナックお登勢」にまで響き渡りそうな、凛とした声が階段を駆け上がってくる。
​「ごめんください! 万事屋とはこちらでしょうか!」
​返事も待たずに、引き戸が勢いよく開いた。
そこに立っていたのは、江戸の町では見慣れない、だが異様に目を引く少女だった。
​銀色の短いボブカットに、黒いリボンのカチューシャ。
真っ白なシャツに、新緑のような青緑色のベストとスカート。
その腰には、身の丈ほどもある長い太刀と、短めの脇差——二振りの刀が堂々と差し込まれている。
​「……あ?」
銀時が片目を細めて顔を上げた。
「お嬢ちゃん。悪いけど、迷子の受付はあっちの真選組っていう税金泥棒共がやってんだよ。うちは今、糖分補給っていう大事な仕事の最中で……」
​「迷子ではありません! 私は冥界の住人、魂魄妖夢(こんぱく ようむ)と申します!」
​少女——妖夢は、生真面目そのものといった表情で一歩踏み出した。透き通るような白い肌が、陽の光に少し浮いて見える。
​「我が主、西行寺幽々子様のお供で江戸に参ったのですが……。主が……主が、あちらの『いちごパフェ』なるものを片端から注文し、挙句に代金を支払わずに『春風に吹かれてどこかへ消えた』と店主に泣きつかれまして……!」
​「……それ、ただの食い逃げだよね」
新八が奥からお茶を持って現れ、冷静にツッコミを入れた。
​だが、万事屋一同の視線は、彼女の言葉よりも、彼女のすぐ横に浮いている「それ」に釘付けになっていた。
​「……ねえ、銀ちゃん」
神楽が酢昆布を噛む手を止め、妖夢の背後を指さした。
「あの娘の後ろに、すっごくデカい『はんぺん』が浮いてるアル」
​そこには、妖夢の体と同じくらいの大きさがある、真っ白で半透明な、勾玉のような形をした「何か」がふわふわと浮遊していた。
​「なっ、はんぺんとは失礼な! これは私の一部、幽霊の半身です!」
​「幽霊ィィィ!?」
新八が叫び、茶碗を落としそうになる。
「ちょっと待って! アンタ、幽霊連れて万事屋入ってきたの!? 事故物件だよ、ここ、これ以上事故らせてどうすんの!」
​「新八、落ち着け。あれは多分……新種の天人か、あるいは最近流行りの巨大な綿菓子か何かだ……」
銀時は死んだ魚のような目をさらに虚ろにしながら、ガタガタと震える手でジャンプを逆さに持ち直した。
​「ですから、私は『半人半霊』の庭師であって、怪しい者では……! ああもう、話を聞いてください! このままでは白玉楼の家計が江戸で破綻してしまいます! 幽々子様を探すのを手伝っていただきたいのです!」
​真っ赤になって抗議する妖夢。その必死な姿は、明らかに「この街で一番騙されやすく、一番苦労しそうな新人」のオーラを全身から放っていた。   これが半人前の剣士との出会いであった。

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