「……悪いな。お嬢ちゃん、うちは休業中だ。ちょうど今、持病の『幽霊見ると足がガクガク震えてジャンプが読めなくなる病』が再発したんだわ」
銀時は震える手でジャンプを顔に押し当て、現実逃避を決め込んだ。
「新八ィ、塩まけ。できれば伯方の塩な。あとお嬢ちゃん、その背後の『デカいおたまじゃくし』も一緒に連れて帰ってくれ」
「おたまじゃくしではありません! 私の半分です! というか、侍ともあろう方が幽霊如きに情けない……!」
妖夢はムッとして頬を膨らませたが、すぐに困り果てたように眉を下げた。
「……ですが、背に腹は代えられません。もし引き受けてくださるのなら、報酬としてこちらを差し上げようと思っていたのですが」
そう言って、妖夢が懐から——どこに隠していたのか——ずっしりと重そうな漆塗りの重箱と、見たこともない透き通った青い瓶を取り出した。
「これは我が白玉楼に秘蔵されていた、冥界の銘酒。そして、幽々子様のおやつ用に私が作った『特製・桜餅風・冥界おはぎ』です」
重箱の蓋が少しずれた瞬間、銀時と神楽の鼻がピクンと動いた。
そこから漂ってきたのは、この世のものとは思えないほど甘美で、どこか魂を揺さぶるような芳醇な香りと、暴力的なまでの糖分の気配。
「……ほう」
銀時がジャンプをスッと下ろした。
「お嬢ちゃん。今なんて言った? 『冥界』? ヘイガイ? 英語でヘイガイ(Hey Guy!)ってことか? 陽気な挨拶だな、嫌いじゃないぜ」
「言ってません! 冥界です!」
「銀ちゃん、このおはぎ、一個食べただけで天国に行けそうな匂いがするアル……!」
神楽が涎を垂らしながら、まるで獲物を狙う夜兎の目で重箱を凝視する。
「……あー、なんだ。新八。お前さっき『困ってる人は助けなきゃ』とか言ってたよな? 侍が弱きを助けなくてどうすんだって。俺は最初からそう思ってたんだよ」
「一言も言ってませんよ! アンタが一番拒絶してたでしょうが!」
銀時は素早く立ち上がると、妖夢の手から重箱をひったくるように受け取った。
「いやー、ちょうどね、仕事を探してたところなんだわ。幽々子様? その食い逃げ……じゃなかった、お転婆なお姫様を探せばいいんだな? 任せろよ、この江戸で銀さんの鼻を逃れられるスイーツ好きはいねーから」
「あ、ありがとうございます……! 意外と話がわかる方で助かりました!」
パッと表情を明るくする妖夢。その純粋すぎる笑顔に、新八だけが「あ、この人絶対これからも搾取される」と確信して遠い目をした。
「よし、野郎共出陣だ! ターゲットはピンク色のふわふわした大食い女だ! 神楽、お前は匂いで追え! 新八、お前は眼鏡で追え!」
「眼鏡で追うって何!? あと妖夢さん、その『半霊』、移動中に目立ちすぎるから、せめて風呂敷か何かに包めませんか!?」
「えっ!? これを包むのですか!? む、無理ですよ、物体はすり抜けますし……あ、でも気合を入れれば硬くなるので……!」
こうして、真面目すぎる半人半霊と、食欲に魂を売った万事屋一行による、前途多難な「亡霊姫捜索大作戦」が幕を開けた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。