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第87話

-雨に駈ける- 四
447
2023/07/09 08:28


ヨナちゃんが見つめる方向に目を向けると、四方からアルマ君に弓を構える兵士達が見えた。
そこには、ケイシュク参謀も。彼が兵士達に指示を出しているように見える。

……ていうか、え?
彼ってアルマ君がシーラちゃんの子だって、知ってるよね……?
ハクを城外へ閉め出した時、アルマ君もハクの傍に居たもの。

参謀の意図が分からない。
兵士達は今にも矢を放とうとしている。



キジャ
まさか、彼奴あやつら本気でアルマを射抜くつもりか……?!
ヨナ
ケイシュク!弓を下ろさせなさいッッ!!ケイシュクっ!
シーラ
___っ
ゼノ
紫龍?!


ゼノ君の驚いた声で振り返ると、シーラちゃんが雨の中へ飛び出して行った。





動ける程回復していないはずなのに、


雨に駈け出すその姿に、迷いは見えなかった。



彼女は少し走った所でバテてしまったのか立ち止まり、息を荒らげながらも膝をつかないよう耐えている。



シンア
!弓が……っ
ヨナ
いや__ッッアルマ逃げて!!


矢が一斉に彼の頭上から降ってきた。

すると______





         〘 堕ちろ 〙




地を這うような、低い声が辺りに響いた。

その瞬間、放たれた矢が全てアルマ君に届く前に不̀自̀然̀に̀地̀に̀落̀ち̀、折̀れ̀た̀。



その異様な光景にしんと静まり返ったその場は一転、どよめきが起こった。



兵士
なんだ、今の……っ?
兵士
宙を進む矢があんな風に落ちるか?!
兵士
"おちろ"って聞こえなかったか?
兵士
低いが女の声だった
兵士
この場にいる女はヨナ姫様と、あの紫色の…
兵士
いや、ヨナ姫様はあんな低い声じゃない
兵士
じゃあ、あの紫の女か…?
兵士
あの女、確か五龍の中の一人だったよな……?
兵士
まさか……!


今のが、紫龍の能力ちからか_______?!







今の光景を目にしたケイシュク参謀が、バッと此方こちらを振り返ったのが見えた。



シーラ
……ゴホッ……ゴホッゴホッ…はァ…はァ
ジェハ
シーラちゃん!


力を使った彼女は喉を抑えて酷く咳き込んだ。
そのまま力尽きたのか、前に倒れる………

ことは無かった。



シーラ
……アル、マ


彼女が地面に倒れ込まないように、アルマ君がシーラちゃんの前で伏せたから。



ユン
アルマーっ皆ーっ!!
ジェハ
ユン君!


そこへユン君が息を切らしながらも辿り着いた。



ユン
アルマ〜もっ吃驚びっくりしたんだからっ!突然扉蹴破ってこんな雨ン中飛び出したと思ったら弓矢飛んできたし、なんでか途中で落ちて折れるし…
シーラ
ユン……済まないね…
ユン
いやもうこーゆー意味分かんない事態慣れてるからいいんだけどってシーラ何その酷い表情カオッッ?!なに?!どうしたのッッ
シーラ
あ、いやこれは
ユン
クマ酷い!寝てんの?!寝てないでしょっ!顔も痩せてんじゃん食べてないじゃん〜ッッ
シーラ
ごめんって、泣かないでユン


流石の彼女も、"医者なら自分の体調管理くらいちゃんとして!!"と涙混じりに言われたら反論出来なくなっていた。
流石ユン君。我らが母よ……



シーラ
……アルマ………


不調を気づかれないように気を張っていたからか。
緋龍城に入ってからずっと相棒に会えなかったからか。

気が抜けたかのようにシーラちゃんはアルマ君に身体を預け、そのモフモフな胴体に顔を埋めて……



ジェハ
………寝た?
ヨナ
寝たわね
ゼノ
寝てんな〜


そのままぐっすり眠ってしまった。

ずっと眠れずに一人で痛みに耐え続けてきたんだ。
それらからやっと解放されて眠気が襲ってきたんだろうね。



シンア
!……っ
ジェハ
シンア君?……あ、


シンア君から少し警戒心が見えた。
何故かと思ったけど、その答えはぐにやって来た。

そこに、先程アルマ君を仕留めようとしたケイシュク参謀の姿があったから。

ヨナちゃんが立ち上がり、厳しい表情で彼に問う。



ヨナ
ケイシュク、先程の行動は何?アルマの事を、貴方は知っているはず
ケイシュク
この大雨による視界の悪さで彼だと認識出来ませんでした。申し訳ありません
キジャ
雨だと……っ?!そなた、そのような言い訳が通用すると本気で思っているのか?!


彼の昂ったたかぶった感情と共に、彼の爪も膨張した。
その感情は、僕らにもある。

目の前で仲間を、"家族"同然の仲間を殺されかけたのだから。

アルマ君も参謀に対し低い唸り声を上げ、シーラちゃんを庇うように警戒心を顕にしている。



ゼノ
……なぁ、とりあえず場所を変えよう。このままじゃ皆風邪引いちまうから


緊張感溢れるこの場の空気を破ったのはゼノ君だった。



ヨナ
でも、シーラを城には……
ゼノ
そうだな。だからさ、参謀の兄ちゃん
ケイシュク
……何でしょう


ゼノ
暫くしばらくさ、紫龍をボウズの所に置いてやってくれよ


ゼノ君の申し出に、その場にいる誰もが驚きを隠せなくなった。



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