チャイムの余韻の後、あちこちの教室からイスを引きずる音がする。
たん、たんと彼女が階段を上ってくる。
震えながら、彼女を拒絶した。
ほら、引いちゃってる。
沈黙に僕の深い呼吸音がやけに大きく聞こえた。
自分で腕をさする。ぞわぞわと警戒する肌をなだめる。
体操の時の比じゃないほどに深呼吸をくり返す。
目にたまった涙を服のソデでぬぐう。
びくりと肩が跳ねる。
違う、あなたちゃんの方が驚いてるでしょ。ごめんね、驚かせて…
…それよりも。
ちらりと彼女を見ると、その手には彼女がイチバン好きな科目の教科書。
彼女のクラスは移動教室だったっけ。
…僕なんて放っておいてよかったのに。
僕は首を横に振る。
僕がお願いした場所から一歩も動かずに会話を終え、僕の返事を待たずに彼女は去っていった。
でも、話したらきっと、優しいあなたちゃんは僕から離れていっちゃう。
ごめんね、まだ話せないや。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!