侑side
ある日の日曜の夕方
今日は珍しく部活がオフだ。なのに……なのに………
それは、明日提出の課題をやるためだ。
北さんにあんだけ課題のこと言われとったのに、やってへんとか、北さんにバレたらやばいからな。
ガラッ(ドアを開ける)
シーン
やっぱり、もう夕方やし、人もおらん………
部屋の辺りを見回すと窓際で壁にもたれかかって立っている人の姿を見つけた。
その人は、少し怖い時もあるけど、思いやりがあって優しくて、俺の大好きな片思いの人だ。
え、何でここにおるん?いや、もしかしたら人違いかもしれん。入口からだと、顔まではよく見えんからな。
スタスタ(近寄る)
北さんは、腕を組んで、目を閉じている。
北さん、俺が入ってきたのにも気づかないくらい寝てるやんけ。珍しいな。
夕陽に照らされた肌は透明感があって、ふせられたまつ毛は羽のように長い。
きっと返事なんて返ってこないとわかっていながら、問いかけてみた。
もう我慢できん…………………。
チュ
やってもうた…………。俺何してんねん。キスしてまうとか………でも、北さんが隙だらけなのが悪いんや。
それはさっきキスしたからや……。
キスのこと気づいてへん?……てか、北さんは俺が距離近くても、冷静で、何も意識してくれんのやな。俺のことなんか眼中にないゆうことか……。
ドンッ(壁ドン)
北さんが歩きだそうとしてたのに、俺は、進行方向の壁に手をついて、その動きを止めた。
北さん。俺のこと、少しは意識してくださいよ。
チュ
そんなこと聞いても、きっと遊びだと思われて冷静に対応されるんやろな。
そう言って、北さんは顔を片腕で隠した。
え、北さん顔真っ赤や。照れとるんか?
ガシッ トンッ
北さんが顔を隠していた腕を掴んで、壁に当てた。
北さんの照れ顔丸見えや♡
チュ クチュックチュチュッ♡
返事を聞く前に、俺は北さんの口を塞いだ。
北さんの返事次第では、もうこんなこと出来なくなるから。
きっと困るやろな。後輩にこんなことされたら。
好きって………今北さん好きって言うた?
嘘やろ。夢見たいや。
全然気づけへんかった。北さん、俺のこと見てくれてたんや。良かったわ。
チュ
大好きな人とのキス。お互い想いあっていた事がわかって本当に嬉しい。
俺、今日ここへ来て良かったな。そう心から思った。
おまけ
図書室から寮へ戻った時のお話
侑にとって、北さんと過ごした時間は、本来の目的を忘れるほど幸せなものなのであったのだ。
次の日、課題を忘れた侑は、先生と北さんに怒られたとさ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!