人間そっくりのアンドロイドは、この世に存在する。
どこにでもいるわけじゃないけれど、
それでも、テレビやニュースを見ていると、アンドロイドの研究はすごく進んでいるらしい。
お昼休みを控えた四限目。
ちらりと横を見れば、二列先の窓側の席に水瀬くんがいる。
授業中の受け答えも、友達と話している姿も、人間にしか見えない。
テレビの中で見たことがあるアンドロイドは、人間そっくりとはいえ、やっぱり表情がぎこちない印象だった。
笑顔なら笑顔のままだし、無表情なら無表情のまま。
だけど、水瀬くんは笑ったり、困ったり、驚いたり、いろんな表情を見せてくれる。
視線を後ろにずらすと、窓側一番後ろの席に園田くんが見える。
その顔には何の表情も浮かんでないし、話を聞いているかもわからない。
彼の表情が変わるとしたら、誰かを睨むときくらい。
近くに寄っただけで鋭く睨んでくるものだから、クラスメイトも話しかけないようにしているし、
いままで学校で園田くんが誰かと一緒に居る姿なんて見たことがなかった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
園田くんと水瀬くんのことが気になりすぎて、今日の授業はほとんど耳に入ってこなかった。
ほとんど記入しなかったノートを教科書と一緒に机の中にしまって、
もう一度園田くんの席を見る。
だけど、そこにはすでに誰もいなかった。
思わず教室内を見渡すと、
ちょうど後ろのドアから出ていく園田くんの姿を発見する。
そして、少し遅れて水瀬くんが出ていくのも見えた。
私は数秒考えて、二人を追いかけることを決めた。
彼らの背中を追ってきたはずなのに、一瞬目を離したすきに、見失ってしまった。
気が付けば、私は人気のない校舎の裏にいた。
さすがにこんな日の当たらない場所にはいないだろう。
自分の行動を考え直してあきらめようとした時、微かに話し声が聞こえてきた。
そうなると湧き出てきた好奇心は簡単には消えてくれないもので、
私は考えるよりも先に、その声のする方へ近づいていった。
校舎裏の、さらにまた日陰になったところ。
ふだん誰も近寄らないような階段の隅に、園田くんと水瀬くんはいた。
離れているからよく見えないけど、園田くんが持ってるのは飲料ゼリーひとつだけ。
隣の水瀬くんのお弁当箱からは、おいしそうな唐揚げが出てきた。
それをぱくりと口に含んだ水瀬くんが次にお箸で持ち上げたのは、とんかつ。
普通にご飯を食べてるだけでも不思議なのに、水瀬くんのお弁当の中身はさらに興味をそそる。
だけど、それ以上に──……。
水瀬くんと話しているときの園田くんは、雰囲気がやわらかい。
声色も授業中に聞くような鋭い声じゃなくて、優しい感じ。
表情だって、笑顔とはまではいかないけどいつもみたいに強張ってはいない。
園田くんのことを、私は実は一年生の頃から知っていた。
それくらい校内では有名な人嫌いだったから。
本人が言ってるわけじゃないけど、対応を見てればなんとなくわかる。
他人に対して警戒心むき出しで、下手に近づこうものなら噛みついてくるんじゃないかってくらい。
だけど、今水瀬くんとご飯を食べている園田くんからは警戒心なんてまるで感じられない。
どんな理由でも、園田くんにこうやって一緒にご飯を食べる友達がいてよかった。
なんて、ほとんど関わったことがないのに、私はなんだか嬉しくなっていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。