家に着いて荷物を置き
エプロンをかける
色々と材料を準備していると
カウンターキッチンの向こうから突き刺さる視線
そう言わずには居られなかった
待ってましたと言わんばかりの顔で
食い気味に話してくるジン
こういう時の彼は本当に分かりやすい
でも、今日1日の彼はよく分からない
不倫相手と会うようになってから
家で夕飯も食べなくなったのに
急にリクエストしてきて手伝おうともして
つい浮かれてしまいそうになる自分を抑える
そう言うと明らかにしょんぼりして
ソファの方へと歩いて行った
そんな彼を見て
なんて馬鹿みたいなこと考えていたんだ
あれから少し時間も経ち
料理もほぼ完成に近づいた頃
突然立ち上がると小走りで寝室へ入っていったジン
この時から嫌な予感はしていた
暫くしてジンは戻ってくると
その意味はすぐにわかった
引き止めるためにしょうもない言葉しか思いつかない
今までこんなに問い詰めたことは無かったのに
勇気のない私はそれ以上聞けなかった
何言ってるの……そんなの、
私にこう言わせたのはジンなのに
少し苦い顔をすると私の頭を撫でようと
伸びてくる彼の手
あと少しで触れそうになった手を遮り
顔を見ずに催促する
少し間が空いたあと
そう言い残しジンは部屋を出ていく
扉の閉まる音が聞こえたと同時に
私と彼の間にも大きく分厚い壁が出来た気がした
それでも、不思議と涙は出てこなかった
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!