そこには、明らかに現実的でない、
グルグルとどす黒く渦巻く、幻想的な
円状のワープゲートがあった。
それは、シュン、シュンと規則的に音が鳴っている。
大きさは、直径約1mくらいしかない小さなもの。
しかし、迫力はその見た目に全く合っていない。
なんでも吸い込んでしまいそうなそれに、
恐怖心がふつふつと浮かび上がる。
グルさんは、ワクワクした調子で言う。
裏腹に俺は1人そのワープゲートの前で立ち尽くす。
見た目も、音も、何も怖い所は無いはずなのに、
なぜこんなにも恐怖が襲ってくるのか。
何も分からない。ただ、それが、どこか、怖い。
でも、
何故か、それと同時に
そこに入りたい、その先を見たい、という
強い欲が俺を襲った。
入りたい、でも怖い。入りたい、怖い、
入りたい、怖い……………………
入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い……………………
俺は自身の頭を手で抑える。頭が痛い。苦しい。
何が起こっているかが分からない。
その意志とは裏腹に、
頭を抑えていた右手はゲートの方に腕を伸ばす。
入りたいという欲が抑えきれない。
しかし、どう足掻いても、
自分の腕はワープゲートに吸い寄せられてしまう。
その時、横から長い腕が伸びてきた。
その腕は俺の右腕を掴む。
そう言って、その腕は俺を力技で
ワープゲートから引き離してくれた。
しかし、バランスを取れず後ろに倒れる。
俺はドカッと、しりもちを付いてしまった。
その長い腕の持ち主…グルさんは、
倒れた俺の顔を覗き込み、心配そうにそう言った。
その瞬間、俺の視界がグランと揺らいだ。
そこまで言った時、
俺の意識は暗闇へと暗転した…………。
次に目覚めた時、そこは見慣れた天井だった。
どうやら自分の部屋のベッドにいるらしい。
ゆっくりと体を起こす。少し尻が痛い。
その時、コンコン、とドアが叩かれる。
すると、ガチャっと扉が開いて
グルさんよりも心配そうで、あわあわしている
おばあちゃんが入ってきた。
そう言って、俺はおばあちゃんから
湯呑みに入った温かい緑茶を頂く。美味しい。
俺はそれをすぐに飲み干し、ベッドから降りた。
一通り話の区切りがついた時、
俺は身を乗り出してグルさんに質問した。
そう聞くと、グルさんはキョトンとした顔をする。
その回答に、俺は驚く。
鬼は全員、グルさんみたいな
好奇心旺盛な奴しかいないと思っていたからだ。
俺と同じような性格…つまり、人間と性格が
似ているという意味だろうか。
…分からないが、グルさんは普通では無い
というところは共通しているようだ。
そう言って、グルさんは顎に手を当て
興味深い、と言うような顔をした。
そこで、俺らの会話は一度途切れた。
おばあちゃんとグルさんは、何を話せば良いかと
あわあわしている。
そんな中、俺はずっと考え事をしていた。
しばらくした後、俺は決心してグルさんに言った。
急な会話に驚いたようで、グルさんは
ビクッと体を震わせながら俺を見た。
俺が口ごもっていると、2人は俺をじっと見つめた。
緊張する中、俺は口を開いた。
すると、おばあちゃんがまた机を揺らしながら
立ち上がる!! ──────と思っていたが、
おばあちゃんは、ただしっかりと
俺を見つめていた。
そこまで言うと、
グルさんは、ハッハッハ、と高笑いした。
グルさんは、納得だと呟きながら、1人頷いている。
その横で、おばあちゃんはうーんと
悩む仕草をしていた。
俺は諦めたようにため息をつく。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
俺は身を乗り出しておばあちゃんに迫る。
グルさんもびっくりしているようだ。
そう言われれば確かに、俺の父の名前。
それは、"桃一朗"だった気がする。
祖父の名前も"桃介"と、全員"桃"が付いている。
前までは信じていなかったが、
今は少し、信じられる気がする。
俺はおばあちゃんを見つめる。
しかし!とおばあちゃんは続ける。
少し反応が遅れるグルさん。
何かを考えているようにも見えるが、何かは
分からない。
そう言って、おばあちゃんはまた
うーんと唸り始める。
10秒ほど悩み、おばあちゃんはハッと
思いついたかのように顔を上げる。
おばあちゃんの突拍子の無い提案に
俺は思わず叫んでしまった……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。