第5話

#5 異変
897
2023/01/09 14:20
そこには、明らかに現実的でない、
グルグルとどす黒く渦巻く、幻想的な
円状のワープゲートがあった。
それは、シュン、シュンと規則的に音が鳴っている。

大きさは、直径約1mくらいしかない小さなもの。
しかし、迫力はその見た目に全く合っていない。

なんでも吸い込んでしまいそうなそれに、
恐怖心がふつふつと浮かび上がる。
tn
な…なんや、これは………
gr
これが私の通ってきた
ワープゲートだ!
gr
どうだ、カッコイイだろう?
グルさんは、ワクワクした調子で言う。
裏腹に俺は1人そのワープゲートの前で立ち尽くす。

見た目も、音も、何も怖い所は無いはずなのに、
なぜこんなにも恐怖が襲ってくるのか。
何も分からない。ただ、それが、どこか、怖い。
















でも、
tn
ぁ……あぁ…………
何故か、それと同時に
そこに入りたい、その先を見たい、という
強い欲が俺を襲った。

入りたい、でも怖い。入りたい、怖い、
入りたい、怖い……………………














入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い入りたい怖い……………………
俺は自身の頭を手で抑える。頭が痛い。苦しい。
何が起こっているかが分からない。
tn
っはぁ…はぁ…
入ったらあかん、入ったら…!!
その意志とは裏腹に、
頭を抑えていた右手はゲートの方に腕を伸ばす。
入りたいという欲が抑えきれない。
tn
嫌、や…いやや……!!
tn
入るな…入るな俺………!!
しかし、どう足掻いても、
自分の腕はワープゲートに吸い寄せられてしまう。










その時、横から長い腕が伸びてきた。
その腕は俺の右腕を掴む。
gr
待てトン氏!行くでない!!
gr
あれほど入らないと言っていたのに
何故入ろうとするのだ!!
そう言って、その腕は俺を力技で
ワープゲートから引き離してくれた。

しかし、バランスを取れず後ろに倒れる。
俺はドカッと、しりもちを付いてしまった。
tn
…っ!!
…はぁ……はぁ………
gr
大丈夫かトン氏…?
gr
何度話しかけても
全く反応しないから
心配したぞ……
その長い腕の持ち主…グルさんは、
倒れた俺の顔を覗き込み、心配そうにそう言った。
tn
ありがとう…グルさん…
その瞬間、俺の視界がグランと揺らいだ。
tn
危うく…ワープゲートに…
入る…とこ、ろ…
そこまで言った時、
俺の意識は暗闇へと暗転した…………。


















tn
…………ん……
次に目覚めた時、そこは見慣れた天井だった。
どうやら自分の部屋のベッドにいるらしい。

ゆっくりと体を起こす。少し尻が痛い。
gr
…………あ、起きたか?
tn
んぁ…グルさんか…
…家ん中、戻ってきたんか……
gr
あぁ
流石に外に放置はしないさ
その時、コンコン、とドアが叩かれる。
tn祖母
桃士………?
大丈夫か?入ってよいか?
tn
あ、ばあちゃん…
全然ええよ。
すると、ガチャっと扉が開いて
グルさんよりも心配そうで、あわあわしている
おばあちゃんが入ってきた。
tn祖母
起きたのか、桃士よ…
お茶、飲めるか?
tn
いやそんな病人やないんやから…
普通に飲めるよ、ありがとう。
そう言って、俺はおばあちゃんから
湯呑みに入った温かい緑茶を頂く。美味しい。

俺はそれをすぐに飲み干し、ベッドから降りた。
tn
よっ、と……
…ばあちゃん、ちょっとは
グルさんのこと信用できたっぽいな。
tn祖母
まぁのぉ…
こいつは鬼じゃが、わしらを
襲って来ないし、なんなら桃士を
助けてくださったそうな……
tn祖母
今もそうじゃ。
わしがお茶を取りに行くために、
お前と部屋で2人きりにさせたが
桃士を襲った形跡が見当たらない。
tn祖母
わしは少し焦りすぎたようじゃ…
すまんのぉ、グルッペン殿。
gr
いやいや、誤解が解けたようなら
よかったぞ!
一通り話の区切りがついた時、
俺は身を乗り出してグルさんに質問した。
tn
なぁ…鬼ってさ、グルさん以外は
全員怖い人なんか?
人間、襲って来るんか?
そう聞くと、グルさんはキョトンとした顔をする。
gr
いや?そんなことないぞ?
gr
というか、自分で言うのも可笑しいが
私は鬼の村では結構な問題児でな…
gr
私より怖くない、
お前みたいな常識的な奴の方が
充分多いと思うぞ。
tn
…え、まじで?
その回答に、俺は驚く。
鬼は全員、グルさんみたいな
好奇心旺盛な奴しかいないと思っていたからだ。

俺と同じような性格…つまり、人間と性格が
似ているという意味だろうか。

…分からないが、グルさんは普通では無い
というところは共通しているようだ。
tn祖母
お、鬼は人間を襲うものでは
ないのか…………?!
gr
…今更なのだが
人間界では、鬼は人間を襲うものと
されているのか?
tn
ま、まぁ、よく悪者扱いには
されとるな…うん……
gr
そうなのか…それは心外だな…
そう言って、グルさんは顎に手を当て
興味深い、と言うような顔をした。
gr
…かくいう私も、人間の性格を
勘違いしていたのだがな。
tn
…え、そうなん?
gr
あぁ。
正直、私が聞いていた人間の情報と
お前らの性格が全く合わなくな。
gr
本当にお前らが人間か
最初はとても疑ったさ。
tn
まじでか…
…まぁ、それ言うんやったら
俺もあんさんが本当に鬼か
未だに少し疑っとるけど…
gr
ほう…そんなにも
お互いの情報が錯誤しているのか…
そこで、俺らの会話は一度途切れた。
おばあちゃんとグルさんは、何を話せば良いかと
あわあわしている。

そんな中、俺はずっと考え事をしていた。
しばらくした後、俺は決心してグルさんに言った。
tn
…なぁ、グルさん。
急な会話に驚いたようで、グルさんは
ビクッと体を震わせながら俺を見た。
gr
あぁ…すまん、なんだ?
tn
…えっと…もし良かったら、
なんやけどさ…
tn
鬼の世界や、鬼の事
もっと教えてくれへんか?
gr
…ほう?なぜ知りたいのだ?
tn
いや…なんか
普通に気になる、というか…
俺が口ごもっていると、2人は俺をじっと見つめた。
緊張する中、俺は口を開いた。
tn
…あ、あと、えっと…
お、俺…鬼の世界、
行ってみたい、ねん……
tn祖母
…………?!
すると、おばあちゃんがまた机を揺らしながら
立ち上がる!! ──────と思っていたが、
おばあちゃんは、ただしっかりと
俺を見つめていた。
gr
…ほーう?w
tn
上手く理由は言えへんけど…
なんか、ワープゲートに
吸い寄せられて…
tn
ゲートの向こうに行きたいっていう…
欲?が、抑えられんかってん…
なんか、ある気がして…
tn
お、鬼の世界行くんやったら!
さすがに、少しは鬼の事、
知っといた方がええかな、って…
そこまで言うと、
グルさんは、ハッハッハ、と高笑いした。
gr
ハッハッハwそうかそうか!
鬼の村へ行きたいのか!!
gr
勝手にゲートに向かっていたのは
吸い寄せられていたから
だったんだな!!
グルさんは、納得だと呟きながら、1人頷いている。
その横で、おばあちゃんはうーんと
悩む仕草をしていた。
tn祖母
むぅ…そうか……
tn
…流石に、あかんよな…
俺は諦めたようにため息をつく。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
tn祖母
…桃士が言うなら、
行かせてもいいかもしれんのぉ…
gr
……………?!
tn
…?!
ええんかばあちゃん?!
俺は身を乗り出しておばあちゃんに迫る。
グルさんもびっくりしているようだ。
tn祖母
あぁ…昔、桃士には言ったことが
あったはずじゃ。
tn祖母
お前の他界した父や祖父の家系…
豚岡家は、桃太郎様の子孫なのじゃ。
tn祖母
何度苗字が変わろうと、
子孫に信じられずとも、
tn祖母
下の名に桃の字をつけ続け、
名を残し続けたそうな。
gr
…………
そう言われれば確かに、俺の父の名前。
それは、"桃一朗とういちろう"だった気がする。
祖父の名前も"桃介とうすけ"と、全員"桃"が付いている。

前までは信じていなかったが、
今は少し、信じられる気がする。
tn祖母
もしかしたら何かがあって、
お前が鬼の世界へ呼ばれているの
かも知れぬ…
tn祖母
それなら、行かせない訳にも
いかんのじゃ。
tn
ばあちゃん…
俺はおばあちゃんを見つめる。
しかし!とおばあちゃんは続ける。
tn祖母
さすがにお前1人じゃ
行かせられん!
わしが心配するからな!
tn祖母
…すまぬがグルッペン殿、
こいつについて行ってはくれぬかの…?
gr
…あ、あぁ、もちろん行くぞ。
少し反応が遅れるグルさん。
何かを考えているようにも見えるが、何かは
分からない。
tn祖母
おぉ、ありがたや…
…しかし、2人だけというのもまた
心配じゃ……
そう言って、おばあちゃんはまた
うーんと唸り始める。

10秒ほど悩み、おばあちゃんはハッと
思いついたかのように顔を上げる。
tn祖母
そうじゃ!
桃士、鬼の世界へ行くのなら
"お供"を連れてゆけ!!
tn
…………お供?
tn祖母
そうじゃお供じゃ!
犬、猿、雉…この3匹を
お供に連れてゆくのじゃ!!
tn
…あぁ〜はいはい、犬猿雉ね…























tn
…………はあぁぁぁあ?!
おばあちゃんの突拍子の無い提案に
俺は思わず叫んでしまった……。




















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