駅前にある製菓材料の専門店。
自動ドアが開いた瞬間、バレンタイン直前特有の熱気と、カカオやバニラの甘い香りが全身を包み込んだ。
店内はラッピング用品を選ぶ女の子たちで溢れかえっていて、制服姿の男子二人はどうしたって浮いている。おまけにジェヒョンくんはかっこいいから女の子たちはみんなこちらを見ている。
そんなことを考えてる暇などない
切り替えてバレンタインの材料を買わなくては
逃げ出したくなる気持ちを抑えて、僕は握りしめたメモを必死に確認する。そんな僕のすぐ隣を、ジェヒョンくんはぴったりと離れずに付いてくる。わざとなのか、時折肩や腕が触れ合って、そのたびに僕の心臓はうるさく跳ねた。
背後から回り込むようにして覗き込まれ、耳元で低い声が響く。吐息が耳に触れそうで、思わず首をすくめた。
そう言って彼が細い指を這わせたのは、棚に並んだ鮮やかな赤色のアイシングカラーだった。
「やめてよ」と言う間もなく、ジェヒョンくんのひんやりとした指先が、僕の熱い頬にそっと触れた。
一瞬のことに頭が真っ白になり、僕は慌てて一歩下がる。けれど彼は逃がしてくれない。
逃げるように「ビターチョコレート」の棚へ移動した僕を、彼は楽しそうに追いかけてくる。その足音が死神の足音みたいに聞こえるのに、不思議と嫌じゃない自分がいて、さらに顔が熱くなった。
僕は棚に並んだカカオ70%のチョコを手に取って、わざと真面目なトーンで言った。
不意に名前を呼ばれ、言われるがままに振り向く。そこには、僕を閉じ込めるように棚に両手をついたジェヒョンくんがいた。
完全に逃げ場を塞がれた「壁ドン」の体勢。至近距離で、彼の少し大人びた香水の匂いが鼻をくすぐる。
そう言う彼の瞳は、いつもの意地悪な輝きじゃなくて、吸い込まれそうなほど真っ直ぐで。
彼は僕の髪を一房、優しく指先で弄びながら、熱を含んだ声で囁いた。
僕は真っ赤な顔で彼を押し返したけれど、握られた手首に残る彼の体温が、どんなチョコよりも甘く溶けていくのを感じていた。
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お会計を済ませて店を出ると、外はもうすっかり冬の深い青に染まっていた。
カバンを奪うように持つ彼の大きな背中を追いかける














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。