首にかけたタオルで髪の毛を拭きながら冷蔵庫を開けた。
水かお茶にしようかな。
あ〜でもコーラやソーダとかの炭酸系も捨てがたい……
うーん、どうしよう……
牛乳パックを取り出してコップに注ぐ。
さて、居間に戻るか。
牛乳を戻して冷蔵庫を締め、コップを持って台所を後にする。
二人共何してるかな〜
なるべく早く出たつもりだけど「遅い!」って言いそうだな……特に雨栗とか雨栗とか雨栗とか。
居間の前に立ってふすまに手をかけたところで動きを止めた。
部屋の中がやけに騒がしい。
なんか話が盛り上がってるのかな。
混ざりたいから早く中に入ろう。
ふすまを引くと二人はテレビに釘付けになっていた。
二人はコントローラを握り締めカチャカチャと音を立てている。
テレビ画面に目をやるとちょうど敵を銃で撃ち抜いた。
気合を入れるようにコントローラを握り直す。
あぐらをかきながら感嘆の声を上げた。
横には開いたいちごオ・レが置いてある。
オレはあんぐりと口を開けた。
じゅ、七キル!?
何食ったらそんなにキルできるんだよ!
開いた口が塞がらないオレを他所にルザクくんはどんどん敵をなぎ倒していく。
えっ?!また倒した!?
その後も次々と敵を倒した。
コントローラを手放し腕を上に伸ばした。
強すぎだろ!!
コントローラを雨栗の方に向ける。
ルザクくんからコントローラを取り上げた。
そうだっけ?と、とぼける雨栗にオレは腹が立った。コイツ……!
クソッ!腹立たしいがこれに関しては何も言えねぇ……!!
腹立つなぁ、コイツ……!!
バチバチと火花を散らしているオレたちを他所にテレビ画面を切り替えた。
板挟み状態なのによく普通にしてられるな。
それとも気に留めてないだけ?
ルザクくんからコントローラを受け取り牛乳をちゃぶ台に置いてそのまま隣に座った。
そんな呟きを無視し操作するキャラを選択した。
胸元にロゴが入ったフードと袖が赤と青の白いパーカにシンプルな白いズボン。
凄く見慣れた光景だ。
そう言って口を尖らせた。
褒めることの一つや二つできないのか、とぶつぶつ文句を言いながらキャラを選んだ。
しょうがないじゃん。
特に言う事ないんだから。
それに初日に褒めただろ、多分。
へいへい。
頬を膨らませながらスタートを押した。
今、ルザクくん完全に蚊帳の外だったな……
ごめんよルザクくん。悪気はなかったんだ。
画面がレースコースへと切り替わる。
『スタート!』の合図とともに一斉にレースカーが走り出した。
前から順に雨栗、ルザクくん、オレだ。
道にあるアイテムを拾う。
俺が出たのはバナナの皮だ。
う〜ん、微妙だな……
しばらく走り中間地点を通ったとことで、ルザクくんがアイテムを雨栗に投げた。
操作が上手く行かずレースカーが蛇行してそのままコースアウト。
満足気に笑った。
うわぁ、さっきのこと根に持ってたのかな……
ざっぴの事、怒らせないようにしよ……
コースアウトした雨栗はスタート地点からやり直しだ。
ん?待てよ。ってことは……
ターゲットである雨栗はスタート地点。
ようは最下位。
オレの方が順番は上だ。
これ雨栗が戻って来ないとやり返せないじゃん!!
えっ、どうしよ……
いや、流石に追いつかないだろ。
ゴールまで三分の一だぞ?
それからしばらく走ってゴールがもう目の前だ。
雨栗が追いつく事はなさそうだ取り敢えずそのへんにアイテム投げとこ。
オレが通った後の道のど真ん中にバナナの皮が落ちた。
ルザクくんを抜かしたい気持はあるが……
返り討ちに合う未来が容易に想像出来るから辞めておくのが得策だろう。
画面に雨栗の操作しているキャラクターが突然現れる。
コイツ、本当に追いついて来た……!!
どうしよう。
ゴールの目の前とは言え油断出来ない。
その上、プレイスキルは向こうのほうが上。
どーしよ……アイテムも何もないし……
思考を巡らせているうちに雨栗はもうすぐそこだ。
そう言いかけて雨栗の車は横転した。
バナナの皮……?
まさか役に立つとは……
残るは雨栗のみとなった。
しばらくして雨栗もゴールした。
手を強く握りしめた。
振り返って立ち上がる。
昔はよくばあちゃんにお願いして一緒にやったなぁ……
オレも久しぶりにばあちゃんとやりたいし。
信じられないと言わんばかりに二人は顔を見合わせた。
隣に座布団を引いてコントローラを置いた。
不安そうにしつつも座ってしっかりコントローラを握っているのでやる気は十分だ。
呆然する二人をよそにキャラを選んだ。
二人共固まっちゃったな……
まあ、このままでいっか。
そのまま決定を押した。
不満そうに続きを言おうとしたがカウントダウンが始まった瞬間画面に向き直った。
切り替え早いな。
スタートを合図に一斉にレースカーが走り出した。
順位はオレ、ざっぴ、雨栗、ばあちゃんだ。
あれ?オレが一位?
特に進展もないまま中間地点を通り過ぎ、アイテムを拾う。
おっ!今回はいい感じ!!
うーん……でも何かが違うな。
ばあちゃんがいるから気を使ってるのかな……?
その必要はないとは思うけど……
コーナに差し掛かったところで雨栗が悲鳴を上げた。
いつの間にか雨栗の姿が見えない。
今度はざっぴだ。
今のばあちゃんのプレイでスイッチが入ったらしい。
爆走でオレの後ろに追いついた。
くっ……!ここは逃げ切りたい……!!
サイド・バイ・サイドしているうちにもうゴールは目の前だ。
ルザクくんがオレより前に出る。
使うならここか。
アイテムをルザクくんに投げた。
ルザクくんのレースカーがくるくる回る。
その隙にオーバーテイクしゴールを駆け抜けた。
左手の拳を握って上げる。
続けてルザクくんもゴールした。
驚いたように声を上げる。
まさかざっぴに勝てるなんて……!
喜びに浸っているうちにばあちゃんがゴールした。
少し残念そうに言った。
相手がざっぴじゃなかったらばあちゃんが二位も全然あったな。
それくらいやり込んでるだろうし。
しばらくして雨栗もようやくゴールする。
多分、オレといい勝負が出来るように練習とかもしてただろうしそれもあるのかな。
二人の嘆きを聞いてばあちゃんはいたずらっぽく笑った。
人は見かけによらない、ということだろう。
その後もしばらくゲームをして深夜零時を回ったタイミングでお開きとなった。
なんか、オタクがいる気がするが気のせいだろう。
自分の部屋の前で足を止めた。
色んな意味で。
扉を開けて部屋に入りる。
閉めようとして雨栗に呼び止められた。
別に色んな意味でやばいヤツで合ってるだろ、雨栗は。
違うの?
信じられないと言わんばかりに大きなため息をつく。
そう言いながらだんだん顔を近づけてくる。
って、顔近いな。
一、二歩後ずさり、オレも口を開く。
それだけ言い残し、扉を締めた。
知らん知らん。
オレはもう眠いんだ。
だから寝る。
布団にダイブし目を閉じた。
今日、部活あったし疲れた……
ね、寝られない……
布団から起きあがった。
あいつらの話し声こっちまで聞こえてるんだけど……
いや、やっぱりうるさいな。
部屋をで出て隣の部屋の扉を勢いよく開けた。
話し声が気になって眠れんわ!
そう言おうとして固まった。
前髪にはいつの間にかプラスとマイナスの髪留めがついていたがそこより別のところに目がいった。
わざとらしく高い声を上げて顔を隠した。
まあ、そうだけど……衝撃的過ぎる。
それ、そのままそっくり返すぞ。
さっきまで眠そうだったじゃん。
あの、眠そうな顔はどこいったんだ。
そういいながら布団から出て来て俺の腕を引っ張った。
だから引っ張んないで……!
仕方なく部屋に足を踏み入れた。
うんうんとルザクくんも首を縦に振った。
別にそんなうるさくねぇよ。
別に彼女欲しいとか思ってないし。
自信満々に胸を張って答えた。
その自信はどこから来るんだ。
いつも仮面をつけてるもんな。
雨栗がそう言うとキョトンとした。
さてはコイツ自覚ないな。
晩飯で散々食ったのにまた食うのか。
あと、屋台もいっぱい出てたはず。
ペンギンのぬいぐるみの腕を上げる。
いたずらっぽい笑みを浮かべた。
しょんぼりと顔を落としてぬいぐるみを強く抱きしめた。
そう言ってルザクくんの顔を覗いた。
ルザクくんの顔を真剣に見つめて。
それに気付いて一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。
そう言って微笑んだ。
そろそろ行きたいなって思ってたところだし、どうせなら三人で行きたい。
いつの間にか布団に潜りぬいぐるみを抱きしめてすやすや眠っていた。
立ち上がろうとするオレを慌てて引き止めた。
俺だってそんなに悪くねぇよ。
仕方ないなぁ。
なんでもないが一番気になるんだけど。
まあ、いいか。
よく見ると布団が三つ並んで引いてある。
いつの間に……
ってことはあの話し声はわざとか。
そう言ってルザクくんとは反対側の布団に潜る。
ため息をついて、雨栗の方を見る。
電気を消して真ん中の布団に移動して寝そべった。
明日もいい日に……
いや、きっといい日になるだろう。
そんな証拠は何処にもないがきっとなる。
まだまだ長い夏休み期待を膨らませて目を閉じた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。