第7話

解りたかったから
37
2024/05/18 08:00
ユーベルが用意してくれた、遅めの晩ご飯を次々と口に運んでいく。
ラント
サラダをこんな変な味にできるの、君だけじゃないかな
ユーベル
素直じゃないよね、メガネ君って
ユーベル
不味かったら食べないでしょ?
ラント
…気を遣ってあげてるんだってことが分からないかな
ユーベル
私には分からないなぁ
会話することを諦めて、黙々と食事に手をつける。

美味しいと感じないのは本当だ。
だけどそれとは別の、何かが僕の味覚を邪魔している。
その正体が未だ分からず、分からないまま食事が終わろうとしていた。もう半分も残っていない。
ユーベル
ごめんね、メガネ君
ラント
…急だな
突然謝られたことに驚く僕を横目に、淡々と口を動かし喋り続ける。
ユーベル
私、メガネ君が故郷の人を大切にしているのを分かっていたのに、手を出した
ラント
けれどそれは、僕のことを守ろうとしてくれたからって聞いたけど
そう対抗すれば、今度は彼女が驚いたように目を見張る。
知っていたの、とでも言いたげな表情はとても間抜けに見えてしまう。
ユーベル
…名誉だけだよ
ラント
それで充分だろう
ユーベル
とにかく、私は朝早くに出るから。おやすみ
ラント
待って。まだ話はある
ユーベル
私はない
ラント
…っ、おい!!
座っていた椅子から立ち上がり、彼女を引き止める。
だが上手く手首を掴むことができなかった。

だからなのか。
ユーベル
…積極的だね、メガネ君
ラント
そうかも、ね
ベッドに、君を押し倒していた。
ユーベル
あはは、メガネ君のえっち
ラント
随分と余裕だね
ラント
抵抗しなくていいの?
ユーベル
…私的にも、できたらよかったんだけどね
交差していた互いの視線が、ゆっくりと逸れる。
先に逸らしたのは彼女の方。
ユーベルの顔は至って普通で何の変化もない。
無意識に頬が赤くなったり、自動的に脈が速くなったり、なんてこともない。
多分僕らは"そういう感情"が欠落しているのだと感じる。

ユーベル
メガネ君が私を襲ってくれるかもって、期待してるのかも
彼女の瞳の先には何が見えているのか。
そんなのはきっと知る由も術もない。
ラント
残念だけど、それはできないな
そう言い、何事も無かったように退けようとする。
これはただのハプニングだ。
それ以上のことは何も起きないし、起こさない。










耳の近くで、リップ音が鳴った。
正確には、頬辺り。
ラント
ユーベル、
ユーベル
安心してよ。本命くちびるにはしないからさ
ユーベル
だからさ
隣には肩がはだけたユーベルがいて、僕をじっと見つめている。
普段の彼女には見られない妖艶さと、色。
ユーベル
襲ってよ、メガネ君

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