ユーベルが用意してくれた、遅めの晩ご飯を次々と口に運んでいく。
会話することを諦めて、黙々と食事に手をつける。
美味しいと感じないのは本当だ。
だけどそれとは別の、何かが僕の味覚を邪魔している。
その正体が未だ分からず、分からないまま食事が終わろうとしていた。もう半分も残っていない。
突然謝られたことに驚く僕を横目に、淡々と口を動かし喋り続ける。
そう対抗すれば、今度は彼女が驚いたように目を見張る。
知っていたの、とでも言いたげな表情はとても間抜けに見えてしまう。
座っていた椅子から立ち上がり、彼女を引き止める。
だが上手く手首を掴むことができなかった。
だからなのか。
ベッドに、君を押し倒していた。
交差していた互いの視線が、ゆっくりと逸れる。
先に逸らしたのは彼女の方。
ユーベルの顔は至って普通で何の変化もない。
無意識に頬が赤くなったり、自動的に脈が速くなったり、なんてこともない。
多分僕らは"そういう感情"が欠落しているのだと感じる。
彼女の瞳の先には何が見えているのか。
そんなのはきっと知る由も術もない。
そう言い、何事も無かったように退けようとする。
これはただのハプニングだ。
それ以上のことは何も起きないし、起こさない。
耳の近くで、リップ音が鳴った。
正確には、頬辺り。
隣には肩がはだけたユーベルがいて、僕をじっと見つめている。
普段の彼女には見られない妖艶さと、色。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!