あのときのこと
今でも鮮明に覚えてる。
それからしばらくの沈黙が続いた。
少しでも、まだ美咲が私のことを信じようとしてくれてる。
なら、私は美咲のために出来ることをしたい。
そう言うと、美咲はいつもの笑顔を取り戻した。
私はもうこの笑顔を消えさせないようにしよう、そう思う。
中庭の、このベンチから見るこの景色。
あのときと変わっていない。
そうして私は美咲と長い教室までの通路を走って走って行く。
楽しいな。
そう思う度に友達の大切さを実感する。
教室につくと、莉子が慌てていた。
あ、告白のことか。
美咲は笑ってそう告げた。
けど……このままでいいの?
莉子にも隠し続けたままで?
よくない。
後ろからナイスタイミング!でひろが来た。
でも、莉子や春也、片山はこの状況が分かっていない様子。
そりゃあ、そうだよね。
私たちは人目を避けるために、教室を出て階段の方に来た。
3人とも固まってる。
静止画みたいに。
静まり返ったこの状況で、莉子が口を開いた。
その私の返答を聞くと、莉子は少しほっとしたような表情を見せた。
どこにほっとする要素があったのか。
本当に、あのゲームがなかったらどうなってたんだろう。
自分の気持ちにすら、気づけてなかったのかな?
ひろは美咲と付き合ってたのかな。
莉子……!!
私は友達に恵まれてる。
いい友達を持ったな。
また、そう改めて実感するのであった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。