第4話

不良の定義
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2024/12/09 13:12 更新
あなた
さーてと、もう夕方だし、ビール飲みながらTV観よっと!!
私は冷蔵庫からビールを取り出し、おつまみやお菓子を用意し、TVの電源を付けた。
ビールを1本飲み干したところで、1回ベランダに出た。
タバコを取りだし、4月が近いとはいえまだまだ寒い東北の空気を感じながら、煙を吐いた。
あなた
やっぱりこっちの星空は綺麗だなぁ。
帰ってきて正解だったかも。
大学進学で東京に引っ越したけど、忙しなく行き交う人々、時間に常に追われる毎日…冷たい人間関係…とにかく目まぐるしくて自分には都会の空気は合わないと感じた。
まぁでも、大学生ながらいい社会勉強にはなったと思う。
タバコを吸い終わって部屋の中に戻り、とりあえずお風呂に入ることにした。
私はお風呂に入る時、必ず鏡を見る…。
背中に彫られた狼の刺青…一生消えることのない、私の「罪の証」。
そう言うとなんだか犯罪者っぽく聞こえてしまうけど、でもそうじゃない。
こういう生き方をしてしまった、胸を張れることなんか一切ない、人様に迷惑をかけまくってきた、でも、どんなに痛くても消したかった刺青は今では自分の中の「決意」と「アイデンティティ」して私はコレと共に生きると決めた。
そう思わせてくれたのは、中学時代の生活指導の先生だった。
単純だけど、私はその先生に憧れて教師になろうと思ったんだよね。
あなた
ちぃーーーっす。
私はその日も生徒指導室に呼び出されて顔を出した。
榊原先生
お前なぁ、ちぃーーーっすじゃなくて「失礼します」だろう。
あなた
いいじゃーん!バーラと私の仲なんだし!ニヤ
榊原先生
バーラって呼ぶのやめろ!!まったく…。
で、今回はなんで呼び出されたかわかるか?!
あなた
うーん…
うーん…
心当たりがありすぎてどれかわかんない!
榊原先生
昨日、他校の生徒と喧嘩沙汰になってただろうが!!
あなた
あー…それもあった!
てか、バーラそんなに怒ると血圧上がるよー?
榊原先生
お前なぁ!!誰のせいだと思っとるんだ!!
はぁ…とりあえず形式上、他校が絡んでる以上事情聴取だ。今から質問するから答えるように。
あなた
はーーーい。
なんでもどーーーぞ。
一通り事情聴取を終えて、榊原先生は深くため息をついた。
榊原先生
あなたの名字、今回は怪我はないか?
あなた
数発殴られたくらいだから全然へーき!!
榊原先生
毎回どこかしら怪我してるから心配しとるんだぞ?!
あなた
バーラやさすぃ!!先生かよ!!
榊原先生
先生だよ!!
私みたいな生徒にも分け隔てなく、気さくに話してくれる榊原先生にはとてもお世話になった。
私がちゃんと不良から足を洗ったのは高校のときだったけど、それは自分の意志でだった。

榊原先生は他の先生と違って「不良はいけないこと」「今すぐやめなさい」「学校に毎日来なさい」とか一切言わない先生だった。

私を否定することは言わず基本的に肯定してくれて、中学卒業まで寄り添ってくれた。
だから、榊原先生と話す時は本音で話せたし、榊原先生のことは信じることが出来た。

当時も不良仲間だった沙耶香も榊原先生のお世話になったうちの一人だ。

髪を染めたら…
榊原先生
おーいい色じゃないか!
ピアス開けたら…
榊原先生
オシャレだなぁ!ところで開ける時って痛いのか?!
墨入れた話をした時…
榊原先生
おぉーお前度胸あるなぁ!!
最初は不思議だった。
先生なら普通怒るでしょ。
一応、生徒を真っ当な道に導くのが先生なのに。
あなた
ねー、バーラってなんで私ら不良に怒らないのー?
榊原先生
ん??怒る理由がないからだ。
まぁ喧嘩はさすがに怪我にも繋がるから怒る時はあるけどな!
あなた
ふーん。普通はさ、もっとこーしろあーしろとか言って更生させようとすんじゃん??
バーラは何も言わないよね、呼び出しはするけどさ。
榊原先生
先生はな、不良って言葉自体に違和感を感じるんだ。そもそも、不良ってなんだ?そりゃ人に迷惑をかけたり、怪我をさせたりするのはいけないことだ。それはあなたの名字、お前もそうだぞ?それは改めないといけないことだ。
だが、髪を染めたり、ピアスを開けたり、墨を入れたりは、本人の自由だ。自分という表現の一部だ。それは周りがどうこう言うことじゃない。
日本人は昔からバカ真面目だし、そういう海外では当たり前の文化には残念ながら慣れてないから見た目だけでも「不良」と一括りにしてしまうんだ。
だから、先生はあなたの名字のことはごく普通の生徒だと思っとる。
そう言ってくれた事が当時の私の胸に突き刺さった。
あなた
バーラそんなこと言ったら先生失格だよー。  
一応生徒指導なのにさー笑
榊原先生
生徒を無理に正しい道に導くなんてことは不可能だ。先生だって普通の人間だからな!何も偉くもないし、人の人生を左右させる権限もない!
ありのままのお前たちを少しでも知って、こうしてたわいも無い話をする、これが本来の先生の役割だと俺は思っとる!
大人になって改めて榊原先生のすごさに気付かされたんだ。
当時の榊原先生がくれた言葉の数々が私にとって、ずっと胸の奥にしまっておきたい大切なものになったんだから。
だから私は教職の道を志した。
翌日…

私は引っ越しの荷物の荷解きをし、家具などの配置をしたり、備え付けの収納に色々整理してしまったり、朝からバタバタしていた。
気づいたらもう夕方になってた。
あなた
あー…やっとなんとなく片付いた…かな?
お腹すいたぁ…。
また烏養の店に行こうかな。
私は上着を羽織って、坂ノ下商店に向かった。
烏養
っしゃい!
あなた
また来たー。
烏養
おぉ、あなたの名字か!もう店じまいだぞー。
あなた
ごめん、ギリギリに来ちゃって!
つまみとビールだけ買わせて!
烏養
いいぜー。
烏養はタバコをふかしながらマンガを読んでいた。
あなた
じゃ、これちょーだい!
烏養
はいよー。
私はお会計をして、ササッと店を後にしようとしたその時…。
烏養
あなたの名字!もう店閉めっから、ここで飲んでけよ!
あなた
へ??

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