私は冷蔵庫からビールを取り出し、おつまみやお菓子を用意し、TVの電源を付けた。
ビールを1本飲み干したところで、1回ベランダに出た。
タバコを取りだし、4月が近いとはいえまだまだ寒い東北の空気を感じながら、煙を吐いた。
大学進学で東京に引っ越したけど、忙しなく行き交う人々、時間に常に追われる毎日…冷たい人間関係…とにかく目まぐるしくて自分には都会の空気は合わないと感じた。
まぁでも、大学生ながらいい社会勉強にはなったと思う。
タバコを吸い終わって部屋の中に戻り、とりあえずお風呂に入ることにした。
私はお風呂に入る時、必ず鏡を見る…。
背中に彫られた狼の刺青…一生消えることのない、私の「罪の証」。
そう言うとなんだか犯罪者っぽく聞こえてしまうけど、でもそうじゃない。
こういう生き方をしてしまった、胸を張れることなんか一切ない、人様に迷惑をかけまくってきた、でも、どんなに痛くても消したかった刺青は今では自分の中の「決意」と「アイデンティティ」して私はコレと共に生きると決めた。
そう思わせてくれたのは、中学時代の生活指導の先生だった。
単純だけど、私はその先生に憧れて教師になろうと思ったんだよね。
私はその日も生徒指導室に呼び出されて顔を出した。
一通り事情聴取を終えて、榊原先生は深くため息をついた。
私みたいな生徒にも分け隔てなく、気さくに話してくれる榊原先生にはとてもお世話になった。
私がちゃんと不良から足を洗ったのは高校のときだったけど、それは自分の意志でだった。
榊原先生は他の先生と違って「不良はいけないこと」「今すぐやめなさい」「学校に毎日来なさい」とか一切言わない先生だった。
私を否定することは言わず基本的に肯定してくれて、中学卒業まで寄り添ってくれた。
だから、榊原先生と話す時は本音で話せたし、榊原先生のことは信じることが出来た。
当時も不良仲間だった沙耶香も榊原先生のお世話になったうちの一人だ。
髪を染めたら…
ピアス開けたら…
墨入れた話をした時…
最初は不思議だった。
先生なら普通怒るでしょ。
一応、生徒を真っ当な道に導くのが先生なのに。
そう言ってくれた事が当時の私の胸に突き刺さった。
大人になって改めて榊原先生のすごさに気付かされたんだ。
当時の榊原先生がくれた言葉の数々が私にとって、ずっと胸の奥にしまっておきたい大切なものになったんだから。
だから私は教職の道を志した。
翌日…
私は引っ越しの荷物の荷解きをし、家具などの配置をしたり、備え付けの収納に色々整理してしまったり、朝からバタバタしていた。
気づいたらもう夕方になってた。
また烏養の店に行こうかな。
私は上着を羽織って、坂ノ下商店に向かった。
烏養はタバコをふかしながらマンガを読んでいた。
私はお会計をして、ササッと店を後にしようとしたその時…。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。