こさめが水色のポータルをくぐって行き着いた先は、浜辺だった。
ザザー、ザザー、と波が岸辺に打ち寄せている。
こさめの顔が一瞬引き攣ったが、水の講師はそんなことはお構いなしに裸足で浜辺に下りた。
こさめも、それに続いて浜辺に下りる。
でも、その目線は絶対に海には向かなかった。
問い詰めるような目で聞かれ、こさめの頬が引き攣り、言葉が出てこなくなる。
結局、「何もないです」とカッスカスの声で言うしかできず、こさめは縮こまった。
この間の王様を見た時の大絶叫ぶりを知っている水の講師はそれを疑問に思ったが、特に深堀することはなかった。
水の講師によると、この場所は水の魔法の鍛錬に最も最適なのだそうだ。
海があるから、多量の水を運んで利用するという魔法も使いやすい。
更に、海の水を参考に何もないところに水を生み出してそれを応用するという魔法も使いやすい。
そして、水の魔法から応用で使えるようになる氷の魔法も、水があれば魂胆に鍛錬できる。
よって、特に力が強い勇者の鍛錬は必ずここで行わなければならない決まりなのだ。
何故かというと、大分昔に花畑を鍛錬場としていた勇者が力を暴発させた時に、魔花が全て枯れてしまったかららしい。
ちなみに、魔花の定義というものは、花に含まれる魔力が他の植物よりも段違いに大きく、更に花ひとつひとつに自我を持つもののことを言う。
暇72の鍛錬場にある彼岸花も魔花のひとつだ。
こういう魔花は全て特定のところでしか育たない貴重なものであり、貿易などにも必要不可欠である。
それが、たった一瞬で水の与えすぎで全て枯れてしまったのだ。
それ以降、昔の王様は水の勇者の鍛錬場を魔花の育たないこの海のみとしたのだった。
顔を覗き込んでくる水の講師から必死に顔を逸らしながら、こさめは頬を更に引き攣らせる。
だが、遂には水の講師に折れ、理由を話した。
結構ガチめの海洋恐怖症。
こさめは、小雨という名前をしていながらも、鮫が親だとふざけていても、海洋恐怖症なのだ。
それは、ある夏休みのマイクラ肝試しで明かされた事実。
シクフォニの6人はとっくに把握している事実。
だが、シクフォニの6人は知っていても、このシンフォニア王国の住民はもちろん知らない。
シクフォニの6人とはまだ3日も一緒にいないのだ。
大して会話すらしていないし、知らないのも当たり前で、だからこそ水の講師は驚きを隠せなかった。
水の魔法の勇者に選ばれる人達は皆、当たり前のように水と触れ合ったことがある人が多かった。
中には、水泳でオリンピックに出場した選手だっていた。
他も、スイミングスクールの先生だったり、昔から趣味で水泳をしていたり、海が大好きだったり。
基本的に、海が好きか泳ぐことが好きな人が多かったのだ。
水の魔法は、どうやったって水に囲まれなければ魔法は使えないから。
でもこさめはそうではないと言う。
だが、他の場所には大抵魔花が咲いている。
力を暴発させて誤っても魔花を枯らしてくれてしまっては、シンフォニア王国が大打撃を食らう。
よって、、、
こさめの涙声の悲鳴がこの場所一体に響いたのだった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!