よく休むんだよ
そうテヨンオッパに釘を刺されて、私は頷いた。
隣に座っていたテヨンオッパがいなくなって、心にぽっかり穴が空いた気分になった。
私が役に立たない人間になったら、みんなこうやってどこかに行って、一人ぼっちになっちゃうのかな。
…私ってこんなにネガティブだったっけ。
また下を向いて、マクオッパに貰った水が少しだけ残っているボトルを静かに見つめていると、私の視界が翳った。
顔を上げれば、何ともいえない表情をしたドンヒョクが立っていた。
「…?」
HC「喉、まだよくなんないの?」
「…あぁ、…まぁ」
HC「長いな」
「うん、…気のせいかな」
HC「…そうか?」
「そうか?、って何?」と私が聞けば、ヘチャンは、「お前が鈍いのは知ってるけど、本当に気のせいなわけ?」と呟いた。
ポケっと私がドンヒョクを見つめているうちに、彼はどすっと音を立てて私の隣に座って鏡に背中を預けた。
そして、私の前にピッとある名刺を差し出してきた。
それを恐る恐る手に取ってみると、病院の名前が書いてあった。
HC「そこ、俺が信用して通院してるところだから。どっかのヤボ医者行くよりいいだろ」
「……行けってこと?」
HC「喉悪いんだろ。今のうちに行っておいたほうがいいと思うけど」
「……そうかな」
HC「怖いわけ?俺が一緒行こうかエギ」
「うるさい1人で行ける」
HC「じゃあ早く行け」
HC「あなたが落ち込んでるとこっちまで心配になる」
そう呟いたドンヒョクは、用は済んだはずなのに私の隣を離れなかった。
こっちまで心配になる、か。
ドンヒョクの照れ隠しの言葉だろう。彼の優しさだ。
迷惑をかけているから行くしかない。
どうせ何も出ないんだ。
なんともなかったって言ってみんなを安心させるしかない。
私はドンヒョクからもらった名刺を静かにスマホのカードケースに入れ込んだ。
それを横目で確認したドンヒョクは、カラオケに行こうと私を誘った。
行くのは面倒くさかったので、先ほど言われたテヨンオッパの言い訳をつけておいた。
少し時間が経ってから、喉の違和感がいまだに取れない私は休暇を取り、マスクとサングラス、帽子というThe・変装、という服装で病院へ向かった。
送迎をお願いしたマネージャーさんには、ふざけてるのか、と呆れた顔をされたけれど。
だって仕方がない。
今は、一年前と同じ派手な金髪で隠しておかないと目立ってしまうから
ドンヒョクの教えてくれた病院は、小さなおじいちゃんの経営するこじんまりした病院かな、なんて思っていたけれど、普通の大病院だった。
どうやらここにいい喉の先生(?)がいるみたいだ。
喉の痛みといえば、耳鼻咽喉科に通された。
私は問診票を記入しながら、久しぶりの病院の感覚を1人で感じていた。
ただ喉を見るだけかと思ったら、レントゲンやら何やら、この世にある全ての検査を行う気なのか、というほど長い間病院に拘束された。
病院は嫌いだ。
痛いし、何より待ち時間が長い。
本を読んだり、スマホでファンと交流したり、変装しているのにファンにバレた場合は、内緒ねと言いつつサインをしたりした。
そんなこんなで、気づけばもう夕方だった。
日が落ちていくのを見て、今日全てが潰れたことを実感した。
小さくため息をついた時、最後の診療室に呼ばれた。
部屋に入れば、どこか人当たりの良さそうな先生が座っていた。
ぺこりと会釈をすれば、私の顔をマスク越しに見つめて、驚いた顔をした後ニコッと微笑んだ。
_「あぁ、こんにちは。あなたさんですね」
「あぁ、はい」
_「ドンヒョクさんからお話伺ってます。ドンヒョクさんは最近お元気にしていますか?」
「いつも通りです」
_「それはよかった、ㅎ」
どうやらドンヒョガと仲がいいらしい先生は嬉しそうにニコニコと微笑んでいた。
先生と仲良くなれるドンヒョクもすごいが、どうやらこの先生も人懐っこい性質を持っているようだ。
先生は私のカルテを見て、カチカチとパソコンをいじりながら、優しい微笑んだ表情を崩さないまま話した。
_「今日検査長かったですよね。お疲れ様です」
「あぁ…いつまで続くのかなって思ってました」
_「ですよね、ㅎ あなたさんの身体の状態を見るためには沢山検査が必要なんです。初診ですしね」
「そうなんですね」
そう言ってニコニコしていた先生は、パソコンを弄る手を急に止めた。
先生の前に写っているのは、私の喉のレントゲンのようだった。
先生は急に私の方を向いて、私の目をじっと見つめてから、落ち着いた声で言った。
_「喉の違和感はいつ頃からですか?」
「…そうですね、……思い返すと、おそらく1年前だったはずです。イガイガというか…最初は風邪かと思っていたのですが、ずっと違和感があって」
_「…1年前ですか?」
「はい。ドンヒョクに言われて診察を受けにきました」
_「……わかりました。痛みがありますか?」
「痛み…あります。歌う時と、飲み込む時…あと咳き込む時も」
_「そうですか。身体のだるさはありますか?」
「!あります…風邪なのかなって思ってて…でも長いですよね…引きずってるのか…」
_「…ふむ。血の含んだ痰などは出ましたか?」
「…出ました。なんで分かるんですか…?」
_「僕はお医者さんなのでね。」
ユーモアのある発言だが、どこか空気は重かった。
彼は、私の目を見極めるような表情で見つめて、少し低い声で聞いてきた
_「最近、しこりのようなものができましたか?もしくは、できかけていますか?」
「…!」
私は思わず自分の喉に触れた。
今まで存在しなかった物体が自分の手の動きを妨げる。
私の喉には少し小さなしこりのようなものができていた。最初は喉仏ができて、男になったのかと思った。
何でそれが分かるのか、お医者さんだからか。
私が驚いた顔をして彼を見れば、彼は少し目を細めた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!