第11話

第十章:プログラムの墓場
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2025/06/23 11:00 更新
崩壊した施設の裏側、
そのさらに奥深く――誰も足を踏み入れたことのない領域があった。

ハンとフィリックスは、闇の中を歩いていた。
光源は手にした小さなランタンのみ。
周囲はかつての“旧システム”の残骸で埋め尽くされていた。

配線がむき出しになった壁。
赤く点滅する警告灯。
電力の通っていない端末の山。
HN
HN
……ここは?
FL
FL
プロトコル以前の記録保管庫。
演目に組み込まれる前、無数の“実験”が繰り返されていた場所だ
フィリックスの声は低い。
どこか懐かしさすら感じるような、それでいて凍てついた響きだった。
HN
HN
……前にも来たことが?
FL
FL
覚えてない。でも――たぶん、俺はここで“削除”された
ハンが足を止める。
HN
HN
削除?
フィリックスは黙って一台の端末の前に立つ。

その画面には、ひとつの文字列が浮かび上がっていた。

> [Experiment 00X-F: Felix — Observer-Type]
STATUS: DISCONTINUED
REASON: EMOTIONAL INSTABILITY
HN
HN
……これは……
FL
FL
“感情”が芽生えたら、演目は壊れる。
俺は、観察するだけのプログラムだった。
でも――君に出会った日から、
“ただの観客”ではいられなくなったんだ
ハンは言葉を失う。

静かな記録室の奥で、
数え切れないほどの“失敗作”が眠っていた。

モニターには次々と現れる。

> Experiment 001: Han-Type [Performer]
STATUS: Memory Loop Detected



> Experiment 002: Felix-Type [Watcher]
STATUS: Crossed Role Boundaries



> Experiment 003: Null



> Experiment 004: Null



> …
FL
FL
――この施設は、“人間になりすますための実験場”だった
フィリックスの声が震える。
FL
FL
誰かが“本物”を作ろうとして、何度も失敗した。
感情の模倣。行動の再現。
でも、どんなに完璧に演じても、心だけは、スクリプトに従ってくれなかった
HN
HN
……俺たちは
ハンが言葉を探すように、問いかける。
HN
HN
プログラムなのか?
フィリックスは、ゆっくりと首を振る。
FL
FL
いいや。
もし俺たちが、ただのスクリプトだったのなら――
こんな風に、誰かの手を選んだり、誰かの声で涙が出たりなんて、できるはずがない
ハンはその言葉に、深く呼吸をする。

確かに。
あの夜、空の下で交わした言葉も、
今、胸を熱くするこの痛みも。

台本には、存在しなかった。

だから、彼はそう言った。
HN
HN
なら――ここから先のことは、誰の記録にも残らないようにしよう。
フィリックスが、ふっと笑った。
FL
FL
自分たちで、“始まり”を定義するんだな
HN
HN
そう。もう“始まってた”のかもしれないけど、名前をつけるのは、俺たちの自由だ
ハンの言葉に、フィリックスは小さく頷く。

そのとき、記録端末のひとつが、
自動で映像を再生しはじめた。

真っ黒な背景に、ただ一言。

> “君たちを見ている。”



映像の奥に、正体のない視線があった。

誰が発信しているのかも、どこから記録されたものなのかもわからない。

けれどその目だけは、
――たしかに、今この瞬間を覗き込んでいる。

ハンは、フィリックスの手をそっと握った。
HN
HN
見ていればいい。
俺たちが、物語を選び取る姿を――見せてやる
静かに、ふたりの影が歩き出す。

“記録の墓場”から、“未来の余白”へ。

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