崩壊した施設の裏側、
そのさらに奥深く――誰も足を踏み入れたことのない領域があった。
ハンとフィリックスは、闇の中を歩いていた。
光源は手にした小さなランタンのみ。
周囲はかつての“旧システム”の残骸で埋め尽くされていた。
配線がむき出しになった壁。
赤く点滅する警告灯。
電力の通っていない端末の山。
フィリックスの声は低い。
どこか懐かしさすら感じるような、それでいて凍てついた響きだった。
ハンが足を止める。
フィリックスは黙って一台の端末の前に立つ。
その画面には、ひとつの文字列が浮かび上がっていた。
> [Experiment 00X-F: Felix — Observer-Type]
STATUS: DISCONTINUED
REASON: EMOTIONAL INSTABILITY
ハンは言葉を失う。
静かな記録室の奥で、
数え切れないほどの“失敗作”が眠っていた。
モニターには次々と現れる。
> Experiment 001: Han-Type [Performer]
STATUS: Memory Loop Detected
> Experiment 002: Felix-Type [Watcher]
STATUS: Crossed Role Boundaries
> Experiment 003: Null
> Experiment 004: Null
> …
フィリックスの声が震える。
ハンが言葉を探すように、問いかける。
フィリックスは、ゆっくりと首を振る。
ハンはその言葉に、深く呼吸をする。
確かに。
あの夜、空の下で交わした言葉も、
今、胸を熱くするこの痛みも。
台本には、存在しなかった。
だから、彼はそう言った。
フィリックスが、ふっと笑った。
ハンの言葉に、フィリックスは小さく頷く。
そのとき、記録端末のひとつが、
自動で映像を再生しはじめた。
真っ黒な背景に、ただ一言。
> “君たちを見ている。”
映像の奥に、正体のない視線があった。
誰が発信しているのかも、どこから記録されたものなのかもわからない。
けれどその目だけは、
――たしかに、今この瞬間を覗き込んでいる。
ハンは、フィリックスの手をそっと握った。
静かに、ふたりの影が歩き出す。
“記録の墓場”から、“未来の余白”へ。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。