静寂。
それは、まるで音そのものが凍ったかのような無音の世界だった。
壁はない。天井もない。床さえ、確かではない。
ただ白。どこまでも、白い空間。
ハンがつぶやいた。
フィリックスは答える。
声すらも、響きのない空間に沈んでいくようだった。
記録されない。保存されない。監視されない。
“存在”そのものが誰にも観察されない領域。
かつて「Truman Project」のすべてが囲い込んでいた舞台の“外縁”。
ハンは自分の指先を見つめた。
そこに、色がなかった。輪郭も、曖昧だった。
フィリックスは、そう言って小さく息を吸い込んだ。
彼が手を動かすと、白の中に薄い青色が現れた。
波の音が、ゆっくりと空白を揺らす。
視界が淡く滲み、やがて“光”が差し込んだ。
空ができる。風が吹く。
太陽が、ふたりを照らす。
フィリックスが差し出した手を、
ハンは、ためらわず握った。
すると今度は、草原が生まれた。
名前も、記録もない空間に、確かな“生”の輪郭が描かれていく。
(これが、自由なのか)
初めての実感だった。
与えられた感情でもなく、
強制された行動でもない。
誰の視線もなく、自分の内側から湧いた、
意思だけで選びとった世界。
ハンは草の上に寝転がりながらぽつりと言った。
フィリックスも空を見上げる。
沈黙。
そして、やわらかな笑み。
フィリックスは言った。
ハンは起き上がり、笑う。
彼は、草をかき分け、目の前の白い地面に指で文字を書く。
> “ここに、生きている。”
言葉はやがて、風に舞う光へと変わった。
世界の“最初の一節”が、ふたりの呼吸の中で誕生する。
物語は、ようやく始まったばかりだ。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。