第3話

誕生
366
2021/03/27 17:47
酸素を得たら、次に産声をあげる
それに対しての歓声のように騒ぎ立てる声

これからが悲劇だと、誰も思わないであろう声

自分の体を抱きしめる母親を見る。
これが今回の母親…まぁ…特に感想はないな
柔らかな表情を見せている…

知っている、それが石のように無表情になることを

彼女は、多分…いいひとだ。
だが、そんなことは関係ない。

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闇に溶け込む黒い髪、黒い瞳
いつもと変わらぬ自分がいた。

生まれてきて、早、数年が経つ。

ここは平凡な世界だ
緑がないわけでも無く、機械がいないわけでも無く
人が多くも少なるもなく、動物がいないわけでも無い

何とも中途半端な世界に生まれ落ち
すぐに捨てられると思った私は、意外なことに家にいる。

この世界は初めてではない、何回か前の私が生きていた
だから、未来に何が起こるのか知っている。

この世界で何が徳とされるのかを知っている。
それに気づいた両親は驚いたが、手放しはしなかった

それらは今、私の稼いだ金を貪って生きている
こうなるだろうと思ったし、いてもいなくても同じなので
放っておいてはいるが、時々デカイ態度で命令してくるのが鬱陶しい

そういう時は金を投げて、笑ってやることにしている
幼少期
幼少期
欲しいなら拾え、穀潰しども
子供と呼ぶには知りすぎている知識
態度、言葉…
両親はオズオズと引っ込んでいく

滑稽だった。

生まれてから、眠った時間は数時間
赤ん坊の頃は、一応に演技をし、取り繕ったりもした。
まずいベビー食も食べたし、泣きたくも無いのに大声で泣いた

一歳になった頃くらいに、飽きてしまい

気味が悪いと思い出した両親を無視して呆然と月日を過ごした。

眠ると言う行為は私にとって必要としない
眠ると扉が開き、気づくと自分の死体の山がある荒野へ行く
その場所に用がある時くらいしか、眠ることは必要ない。

だが、この日はとても眠かった。

不思議な感覚だなと思いながら全身の力を抜く

こんなに無防備な状態もいつぶりになるのやら、と頭の片隅で考える

死体の山を思い浮かべる…
私が必要としなくても、無理矢理にそこへ行かねばならない時もある
きっと今回もそうなのだろう?

そう思って、目を閉じる。
幼少期
幼少期
ん?
立っているのは、霧深い森…のようだ…

霧が濃くて二本目の木がほとんど、見えないほど

乾いた風の吹く荒野ではなく
湿っぽく生暖かい、ため息のような風が纏わりつく場所だ

遠くから、音が聞こえる

白い霧を切り裂きながら向かってくるソレは

闇に溶けるような、黒い馬だった…
力強く大地を蹴って、走ってくる馬を見た時
何かが、体を強張らせるのが分かった。
幼少期
幼少期
この馬…知っている…
幼少期
幼少期
いや、でも…ん〜
幼少期
幼少期
知っているのならば、過去に見たことがあるって事…
何だったかな?思い出せないな……ダル…
多分、遠い記憶だ。

はっきりと覚えているなんて記憶は特にない。
さまざまな記憶が混在しすぎて、自分でも訳がわからないのだから

しかし、黒いこの馬のことは
何だが、強烈に覚えているのは確かなのだ…
そしてそれに何らかの恐怖心を持っているのも分かる。

はっきりと思い出せないことに苛立ちながら、ただただ
同じ闇のように黒い瞳を見つめ合った。

霧が濃さを増した時には、目が覚めていた…

覚えていたり、覚えていなかったりと

今更、過去にいた世界が何故、ここで現れたのか
全くもって意味がわからない
不快だ…

人の何千倍もの知識だけが渦を巻く脳で
過去の記憶をほじくり返すのは、厄介なんだ…

知識と同じくらい、記憶もしっかりしていてくれれば

いや、それはそれで厄介だ…

どちらにせよ、今の状態…まぁ…
幼少期
幼少期
厄介だなぁ…

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